グリム童話の「金のガチョウ」。
黄金のガチョウとも言われるようですが、愚か者の主人公が森の老人の力を借りて幸せをつかむお話し。
ここではあらすじを簡単に見て、
物語の教訓や森の老人の正体、金のガチョウの行方など、いろいろな疑問についても見ていきましょう。
金のガチョウ:主な登場人物
- ドゥムリング(Dummling):
物語の主人公。男3人兄弟の末っ子。頭が弱いと周囲からは馬鹿にされている。 - 二人の兄:
森で木を切りに行くが、老人を冷たくあしらい怪我をする。 - 父親と母親:
父親はドゥムリングが木を切りに行くことに反対する。母親は子供たちに食べ物と飲み物を与えるが、ドゥムリングには酷い食べ物を与える。 - 小さな老人:
森でドゥムリングとその兄弟たちに出会う。ドゥムリングが受ける困難を全て助ける - 金のがちょう:
小さな老人がお礼としてドゥムリングに授ける。純金の羽を持つ。 - 王様:
娘(お姫様)を笑わせたものを婿にすると言い出すが、ドゥムリングに難色を示し、無理難題をふっかける - お姫様:
王様の娘。非常に真面目で誰にも笑わされたことがないが、ドゥムリングが遂に笑わせ、最後には二人は結婚する。
主人公の「ドゥムリング(Dummling)」は、ドイツ語で「愚か者」や「間抜け」を意味し、主人公がおかれる状況を物語ってます。
でも物語の結末では、実はドゥムリングが最も賢くて善良であることが分かるんですね。
金のガチョウ:あらすじを簡単に
それではまず、金のガチョウのあらすじを簡単に見ていきましょう。
ドゥムリング、森へ行く!
ある所に父母と3人の息子の家族が住んでました。
上の兄たちは賢く、でも意地悪、
末の子は「ドゥムリング」と呼ばれ、
優しいけどいつもバカにされてます。
ある日、長男は森で木を切りに行くことになり、母親は美味しいケーキとワインを持たせました。
森で灰色の髪をした小柄な老人に出会い、
お腹がすごく空いてるんだ。
喉もカラカラだ。
ケーキとワインをわけてくれないか。
でも賢い長男は、
可愛そうな老人の頼みを断ります。
あんたにあげたら自分の分がなくなるじゃないか
そう言うと老人を置き去りにして森に入り木を切りますが、誤って斧で自分の腕を傷つけてしまいます。
次に次男が同じように森へ行き、同じ老人に出会いますが、彼もまた老人の頼みを聞かず、結果的に足を傷つけてしまいます。
今度が僕が行きたい!
兄たちを見ていたドゥムリングは、こう言い出しますが、「お前が行ってどうするんだ」と父親に反対されてしまいます。
それでも食い下がるドゥムリング。
「そこまで言うなら行ってみるがいい。自分が同じように傷つけば、お前も少しは賢くなるだろう」
老人と金のガチョウ
とうとう父親も折れ、ドゥムリングも森に行きますが、母親が渡したのは美味しいケーキやワインではなく、牛乳やバターの代わりに水だけで作られた粗末なケーキと酸っぱいビールだけ。
それでも森に向かうドゥムリング。
兄たちと同じように老人に出会います。
お腹がすごく空いてるんだ。
喉もカラカラだ。
ケーキとワインをわけてくれないか
良いよ~!
でもあまりいいケーキじゃないし、
酸っぱいビールしか持ってないけど、一緒に食べようよ。
そう言い老人に分け与えようとすると、
なんと美味しいケーキとワインに早変わり!
ありがとうよ。
お礼と言っては何だが、あそこの古い木を切ってみるがいい。
老人はドゥムリングの親切に感謝し、
こう言い残して立ち去ります。
ドゥムリングが老人に言われた通り木を切り倒すと、なんと純金の羽を持つガチョウが現れるんですね。
うぉ!なんじゃこりゃ?!
その後ドゥムリングは
金のガチョウを持って予定していた宿屋に泊まります。
三人の娘たち
宿の主人には3人の娘がいて、
ガチョウの金の羽が欲しくて欲しくてたまりません。
ドゥムリングが出かけたすきに長女がガチョウに触れると、その瞬間に手がくっついて離れなくなってしまいます。
次に次女も部屋に忍び込みますが、
「あんた、何やってるの?」と
姉の体に触れた途端、姉に手がくっついてしまいます。
三女も同じように部屋に来て、
次女の体に触れると手がくっついてしまい、3人ともその場を離れることができなくなりました。
翌朝、ドゥムリングはガチョウを持って出発しますが、この3人の娘たちを全く気にせず歩く歩く。(笑)
ガチョウの後には3人の娘たちがくっついたまま、ヨロヨロ右に左にと歩きづらそうに後に続きます。
途中、牧師、教会の管理人、そして二人の労働者も、何だあれは?と引きはがそうと手を出し、次々とくっついてしまいます。
それでも気にせずドゥムリングは歩く歩く(笑)
ドゥムリングの後には7人の男女がヨタヨタと左右ふらつきながら、くっついて歩く形になりました。
その後町に着き、ドゥムリングは、
「お姫様を笑わせたものを婿とする」
という王様の話を聞き、王の城へと向かいます。
笑うお姫様と無理難題
お姫様は、ドゥムリングの後に続く7人の奇妙なヨタヨタ歩きには大笑い!
ドゥムリングはお姫様との結婚を王様に求めますが、王様はどうも愚か者と呼ばれるドゥムリングのことが気に入らなず、無理難題をふっかけます。
城にある保管所のワインを全て飲み干せる男をつれて来い!
この高く積み上げられた巨大なパンの山を食べつくす男を連れて来い!
ドゥムリングは老人の事を思い出し森を訪れると「のどがカラカラで死にそうな男」や「今にも飢え死にしそうな男」に出会い、お城にあるワインを全て飲み干すは、巨大なパンの山を食べつくすはで、王様の意地悪な難題をクリアしてしまいます。
それでもドゥムリングを娘の婿にしたくない王様。さらなる難題を出します。
陸上でも水上でも走れる船を持って来い!
ドゥムリングが再び森に行くと、
金のガチョウを授けてくれた老人がいました。
あんたには優しくしてもらったからな。
わしがその船、作ったるぞ!
とうとう王様も諦め、
ドゥムリングをお姫様の婿に迎え結婚式をあげました。
王様が亡くなった後は、なんとドゥムリングがその後を継ぎ、長く幸せに暮らしましたとさ。
金のガチョウ:教訓は?
この物語の教訓を以下になるでしょう。
- 人は外見で判断してはいけない
一見愚か者に見える主人公のドゥムリングは、幸運を最後に手に入れ、結末では王様にもなってます。
王様になったということは、ドゥムリングは実は賢く善良であり、だから皆にも認められた、ということになりそうですね。
人は外観によらないし、一見おろかに見える人も幸運を手に入れられるチャンスはいくらでもあるものだ、ということを言っているように見えますね。 - 困っている人がいたら助けるべし
ドゥムリングの二人の兄は、
森で困っていた老人の頼みを聞かず、報いを受けてケガをします。
一方、老人を助けたドゥムリングは金のガチョウを手に入れるし、最後はその老人から多大な助けを受けます。
困っている人を助けないと良くないことが起きるし、逆に助ければ必ず良いことがあるものだ、ということを示してるのでしょう。 - 細かいことは気にせず、自分の目指すべき道を行け
ドゥムリングは金のガチョウにくっついてしまった人たちを気にもせず、ズンズン歩き、お城の王様、お姫様に会いに行き、最後には老人の大きな助けを借りて、困難を乗り越え幸せを手に入れます。
周りからいろいろ言われても、気にせず自分の信じた道を歩きなさい、ということを示しているように見えますね。
色々不思議の多い物語
この金のガチョウの物語は、少し丁寧に読もうとすると、「あれ?これはどうして?」とか「これはどうなった?」と疑問がいくつか出てきます。
グリム兄弟は伝承などをまとめて物語にしたりしてるので、何か2つか3つぐらいの別の似たような物語を1つにまとめてこの「金のガチョウ」という1つの物語にしたのかな?という感じもします。
(特にこの物語の原作となるお話はないようですし)
あらすじを書いていて、どうもうまく流れを書けない、ということでグリム童話の原文も改めて読んでみましたが、原文も特に細かい描写はなく、疑問が解決できない(笑)
参照した原文は以下)
THE GOLDEN GOOSE – Grimms’ Fairy Tales
昔話なので気にすることもない、という感じですが、ここがに気なった、よく分からない、という疑問をいくつか挙げてみますので、参考になったら幸いです。
善悪の2択しかない
まずすぐ気になったのが、二人の兄が森に行き、老人の頼みを聞かなかったがために、二人ともその後ケガをするといった報いを受けること。
主人公のドゥムリングは老人を助け、金のガチョウを授かるのでそれは良いとして、二人の兄が必ず怪我をするという筋は、老人を助けるしか道がないみたいな、結構極端な感じもしそうです。
なぜ森を出た後いきなり宿に泊まるかな
出だしではドゥムリングは二人の兄がケガをしたので、次は僕が行く!といって家を出るわけですが、森で老人と出会い金のガチョウを手にした後、なぜか家に帰らずいきなり宿に泊まります。
どういう計画で家を出たのかも分からず、何をする予定なのかもわからず、どうも話が見えない感じ。
きっと、金のガチョウを手に入れたことで、「これは運が向いてきたぞ。ちょっくら冒険してみよう」ということで、家に帰るのではなく宿に泊まってどこかに行こうと考えた、ぐらいなところでしょうか。
ガチョウを置いてどこに行く?
宿に泊まり、ドゥムリングは金のガチョウを置いたまま、どこかに出かけたようです。
そのすきに3人の娘がガチョウの羽を狙ってやってくるわけですが、いつ帰ってきたかもわからず、なぜ大切な金のガチョウを置き去りにしたのかもわからず、3人の娘がくっついた後、何かいきなりガチョウを置いている部屋に現れた感じになってます。
たとえば「宿の部屋に入り、金のガチョウをわきに置いて寝た。寝ているすきに娘たちがやってきた。そして翌朝目覚めると...」など、簡単にでも状況が分かるようになっていると気にせず読めるんですが、どうもそうはなってない。
なぜ3人の娘を気にしない?(笑)
ドゥムリングは、金のガチョウを元にして3人くっついて並んでいるのに、全く気にせずガチョウをもって宿を出ます。
普通なら「うぅぉぉぉ、なんじゃお前たちは!?」「私たちだって好きでこんなことをしてるんじゃないわ!」みたいな会話が出てきてもよさそうですが、物事は淡々と進んでいくんですね(笑)
多分ここのシーンは、物語ので出して主人公が愚か者と紹介されていることから、「まぁ、そういうこともあるか」と考えて気にしなかった、ということになるのでしょう。
それにしても、そこまで鈍感になっていいのか!と思わず突っ込んでしまいそうなところです。
なぜ町に向かう?!
森から出た後、宿に泊まったのと同様、翌朝家に帰るのではなく、町へ町へと進んでいきます。
なぜ家に帰らない?!どうして町へ行くのだ?!とここも思わず突っ込みながら読んでしまいそうなところですが、宿に泊まったのと同様、金のガチョウを手に入れたことで冒険してみたいと思っていた、ということが考えられそう。
こうしたところが気になると、
中々お話も楽しく読めないんですが(笑)最後の疑問は「老人の正体と金のガチョウの行方」。
老人の正体と金のガチョウの行方
この物語の最大の謎、
「老人の正体」と「金のガチョウの行方」について。
老人の正体は?
森の中で出会った老人は、自分を助けなかった二人の兄にはケガをするという罰を与え、助けてくれたドゥムリングには金のガチョウをプレゼント。
普通に見れば、おとぎ話に出て来るような「森に住む妖精」が老人の正体と考えられますが、それは良いとして、この老人、物語の最後の方で、無理難題を国王からふっかけられたドゥムリングを3度助けます。
絶対笑わない真面目なお姫様を笑わせたら婿にする!という話しがあり、そのお姫様を笑わせたドゥムリングは「どうかわたしを婿にしてください」と王様に願い出ます。
ドゥムリングが気に入らない王様は3つの難題を出しますが、1つ目は「城にある保管所のワインを全て飲み干せる男をつれて来い!」というもの。
そこでドゥムリングは老人を思い出し森へと行きますが、そこで出会ったのは老人ではなく「のどがカラカラに乾いた男」。
そして2つ目の難題「高く積み上げられた巨大なパンの山を食べつくす男を連れて来い」の時に森で出会ったのは「餓死しそうな男」。
3つ目最後の難題は、
「陸上でも水上でも走れる船を持って来い!」ですが、この時森で出会ったのは、あの老人です。
老人は「そんなもの、わしが作ってやる!」と作るわけですが、なぜ最初の2回は男で、最後は老人自身が出てきたのか。
なんなら、何か作りたくて作りたくて死にそうになっている木こりや大工を出せばよいのに(笑)なんて突っ込みもしたくなる場面ですが、最初の二人の男の時も老人が出て来て「よし、わしが飲み干してやる」「食べつくしてやる」と出てきても良かったのかな、なんて思うところ。
金のガチョウの行方は?
そして最後は物語のタイトルにもなっている金のガチョウ。
老人に授かったこのガチョウ、
羽が黄金出てきていて、とても高価にも思えるもの。
娘たちがその羽を欲しがるのは自然ですが、王様も金のガチョウが欲しくなった!みたいな描写もなく、何か話から無視された感じにもなりますし、更にドゥムリングがお姫様を笑わせた後は、実は最後まで1回も登場する機会がない(笑)
たとえば物語の最後に「幸運をもたらせた金のガチョウと共に末永く幸せに暮らした」など、ちょっとでいいので出してくれれば「あぁ、良かったね」で終われますが、「おいおい、金のガチョウはどこ行った?読み飛ばしたか?」と思わず少し前に戻って読み返すことになりそうです。
更に、このガチョウからくっついていた3人の娘を含む7人の男女。
お姫さまが笑った後ガチョウの登場機会がないので、この7人がどうなったか分からないし、何をしたら、くっついてる状態から逃れられたのかも分からない。
あの7人はどうなった!?(笑)
勝手に想像すると、
3つの無理難題の最後の1つは、森の老人自ら舟を作っている(つまり再び主人公に姿を見せているので)その流れで、「どれどれ、あの者たちをガチョウから放してやるか」と、老人が「くっつき魔法」を解いた、みたいなことが考えられそう。
また金のガチョウは老人がドゥムリングにあげたものなので、老人はこれまでなくしてしまうことはせず、ドゥムリングとお姫さまが生涯大切にされた、ということになりそうです。
もしかしたら、宮殿のどこかにガチョウ専用部屋を作ったり、ガチョウのためにお嫁さんをどこかから連れて来て、そこで金のガチョウ夫婦も幸せに暮らした、なんてことも想像出来ちゃいそうですね。
グリム兄弟がこの物語の最後に金のガチョウを登場させなかったのは、主人公のドゥムリングが幸せをつかんだことで金のガチョウの役目は終わったからもう登場させる必要はない、その方がメッセージが良く伝わる、と、あえて物語に出さなかった、ということも考えられそうです。
そうなると、金のガチョウは幸運の象徴としてこの物語に描かれていた、ってことになりますね。
まとめ
- 金のガチョウは、愚か者とされた主人公が、森の老人の力を借り、困難を乗り越えて幸せをつかむ物語。
- 森から家に帰らず、いきなり宿に泊まったり町にでかけたりと、いろいろ不思議な部分があるが、それらは金のガチョウを得たことで、主人公がそれまでには感じてなかった冒険心が心に宿った、とも考えられる
- 最大の謎は、最後の方で金のガチョウが全く出てこなくなったこと。グリム兄弟が意図したのかは分からないが、意図したとしたら、主人公が老人の助けをかりつつも困難を克服し幸せをつかみ取る、というところを強く見せたかった、ということかもしれない
物語の結末から、金のガチョウがその後どうなったのか考えるのも楽しいですね。
いろいろと考察しましたが、私の頭の中には、その後ドゥムリングとお姫さまとの間に子供も生まれ、その子供が毎日のようにガチョウのいるところに通って一緒に遊んでいる、みたいな風景が見えました。
あなたにはどんな風景が見えるでしょうか。^-^)
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