「舌切り雀」は、雀が舌を切られて放り出され、雀のお宿でお爺さんは小さな葛籠(つづら)を選んで金銀財宝、おばあさんは大きな葛籠で化け物が出て罰を受ける!という物語。
ここでは、「舌切り雀のあらすじを簡単に見る」とともに「原作のあらすじ」や「内容の変遷」まで見てみましょう。
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舌切り雀:あらすじを簡単に
ある所に「優しいお爺さん」、「欲張りなお婆さん」の夫婦がいました。
お爺さんが山へ柴刈りに行った時、
怪我した子雀を見つけます。

優しいお爺さんは雀を家に持ち帰り、大事に育てました。
雀をかいがいしく面倒を見るお爺さん、お爺さんだけに懐く雀を見て、お婆さんは忌々しく思いますが、ある時、雀がお婆さんの作ったノリを食べてしまいます。
これに怒ったおばあさんは、
「何するんだい!」と雀の舌を切り、放り出してしまいました。
家に帰ってきたお爺さん。
お婆さんからこの話を聞くと「なんてこったい!」とすぐ雀を探し回ります。
途中途中で人に尋ねたりして、
やっとのことで藪の中にある雀のお宿を探し当てます。
雀との再会を喜ぶお爺さん。
お爺さん:
「おぉ、無事で何より」
雀:
「お婆さんのノリを食べてごめんなさい。でも心配してここまで来てくれてありがとう!」
雀は仲間の雀を呼んで、お爺さんをご馳走や歌や踊りでもてなします。
お爺さんが帰る時には「大きな葛籠(つつら)」「小さな葛籠」が用意され、どちらか好きな方を持って帰るようお爺さんに言いますが、
「年寄なので、小さいので良いよ」
と、お爺さんは小さい葛籠をお土産として家に帰ります。

家に帰って葛籠を開けてみると、これがびっくり。金銀財宝がいっぱい入っているではないですか。
それを見た欲張りなお婆さん、
「なんで大きな方を持って帰ってこなかったのか」と、急いで雀のお宿に行き、大きな葛籠をもらいます。
帰りの途中、
「大きな葛籠が手に入ったのは良いけど、帰ったらお爺さんと分けなければならないな。どんなものが入ってるか先に見てみよう」
と中を開けるとこれまたびっくり。
化け物が出てきてお婆さんは気絶してしまいます。
このことを機にお婆さんは心を入れ替え、お爺さんと幸せに暮らしましたとさ。
舌切り雀:原作と変遷
舌切り雀の物語で一番古い書物は、
鎌倉時代に成立したとされる「宇治拾遺物語」にある「雀恩に報ゆる事」(腰折雀:こしおれすずめ)。
ここでは、二人のお婆さんと、腰を折られた雀の恩返しと復讐が描かれてますが、あらすじを若干詳しく見てみましょう。
腰を折られた雀
昔々、心優しいおばあさんがいました。
ある日、子供が遊びで雀に石を投げ、
雀が腰を折ってしまいます。
可愛そうにとお婆さんが助けて毎日えさを与え介抱しました。
おばあさんが雀を飼ってるぞ!
そう笑う子や孫にも世話を頼み、
雀の折れた腰も次第に治っていきます。
もう大丈夫か、と、
ある日おばあさんが雀を外に出すと、
パタパタと羽ばたき飛び去って行きました。
「あらあら、飛んで行ってしまいました。そのうち戻って来るのでしょう」
と暇そうにしてたので子や孫はまた笑います。
恩返しに来る雀
でも20日もすると、
雀が瓢箪(ひょうたん)の種を一粒加えて戻ってくるんです。
お婆さんが、「これは何かわけがあるのだろう」と、その種をまいてみると、これがあら不思議。
普通の瓢箪とは違って沢山の実をつけるではありませんか。
優しいおばあさんは子供や孫は勿論、
近所の人にも分けて、皆お腹いっぱいで大喜び。
おばあさんは「大きな瓢箪は乾かして器にしよう」と、家の中で7個、8個ぶら下げておきますが、幾月か後に開いてみると、なんと中には使いきれないほどの白米がいっぱい詰まってます。
こうしておばあさんは裕福になりました。
隣に住むおばあさん
これを見た隣に住むおばあさん。
子供達から、
「隣のお婆さんはすごい!
でも、うちのおばあさんは働かないし」
など言われてしまいます。
悔しいおばあさんは、裕福になったおばあさんから雀の話を聞き、自分も「腰を折った雀を助けて育てよう!」と腰を折った雀を探しますが、なかなか見当たらない。
それなら、と、雀に石を投げつけ腰を折る!という暴挙にでるわけですが、更にこのおばあさん、
「一羽であれだけ幸せになるのなら、二羽、三羽ならもっとすごいことになるぞ」
と、さらに2羽も腰を折り、
全部で3羽の雀を飼うことに。
その内、雀も腰が治り飛び立つことになりますが、雀たちは「何てことしてくれたんだ、このばあさんは」と実はめちゃくちゃ怒ってる。
仕返しに来る雀たち
それでも3羽のすずめは
10日もたつと瓢箪(ひょうたん)の種を1粒づつ持ってきた。
これにはおばあさんも大喜び!
早速その種をまくと、
成長は早いわりには実がそれほど多く実らない。
それでもおばあさんは、
隣のおばあさんを真似して子供や近所の人にその瓢箪をふるまった。
ところがこれが苦いこと苦いこと。
子供達やおばあさんも体調を崩して寝込んでしまう始末。
「本当は白米になるはずが、
きっと早く食べ過ぎたんだ。」
おばあさんは、残りの瓢箪(ひょうたん)を全部家の中に吊るし、幾月か置いてみた。
もういいかな、と瓢箪の口を開けてみると、
何とムカデやトカゲ、蛇やアブがゾロゾロと出て来るではありませんか。
おばあさんや子供たちは、
蛇や虫に嚙まれたり刺されまくり、
とうとう死んでしまいました。
実は雀は腰を折られたことを恨みに思い、
虫や蛇たちと相談して瓢箪(ひょうたん)の中にひそませたのでした。
参考)
宇治拾遺物語 3-16 雀(すずめ)報恩の事|原文・現代語訳・解説・朗読
物語の変遷
この原作とも言えそうな「腰折雀」(こしおれすずめ)ですが、この「腰を折られた雀と二人のお婆さん」の物語から、次第に「舌を切られた雀と老夫婦」の物語へと変わったようですね。
明治から昭和にかけて活躍した国文学者、近世文学研究者の「小池藤五郎」(1895- 1982)が、舌切り雀の物語を凄く詳しく調べ、以下でまとめてます。
記録を基礎とした「舌切雀」説話の研究
(pdf:立正大学学術機関リポジトリ)
これによると、
舌切り雀のお話は、以下のような変遷が見られるようです。
- 「腰折れ」⇒ 「舌切れ」(その後「舌切り」)
- 「子供や大人たちが嘲け笑う描写」⇒削除
- 「3羽の雀」⇒「1羽の雀」
- 「瓢箪(ひょうたん)」⇒「宝物」(如意宝珠)
元々が大人向けの話であったものが、
子供向けに変わる中で、こうした変化となったようですね。
江戸時代の後期、
賀茂規清(1798-1861)著の「雛迺宇計木」(ひなのうげき)にある「したきれ雀」では、老夫婦と舌を切られた雀が登場し、現代に伝わる話と非常によく似てきてます。
<「雛迺宇計木 – したきれ雀」あらすじ>
- 昔、正直者のお爺さん、意地悪なお婆さんの夫婦が住んでいた。
- ある時、山で鷹に追われた雀の子がお爺さんの懐に逃げ込んできた。お爺さんはその雀の子を大事に育てた。
- ある日、その雀がおばあさんの洗濯ノリをすっかり舐めてしまったので、舌を切って追い出した。
- 悲しんだお爺さんは、雀を探し回り、竹藪の中から子雀の親が出てきて、立派な家に案内され、ご馳走と雀の踊りでもてなされた。
- お土産にと、重い葛籠(つづら)と軽い葛籠を出されたが、お爺さんは欲がないので軽い方を持って帰ります。開けてみると中にはたくさんの宝物が入ってた。
- この話を聞いたお婆さん、なんで大きい方を持ってこなかったのかと、雀の宿を探し出し、重い葛籠(つづら)を持ち帰った。
- 中からは化けものが出てきて、気絶してしまうお婆さん。
- お爺さんに叱られたお婆さん。心を改め、養子ももらい嫁も来て栄えたとさ
元々二人の婆さんの物語が、江戸時代後期になると優しい爺さんと意地悪な婆さんの夫婦の物語となり、雀も腰を折られるのではなく舌を切られる、というように、現代に知られる内容に凄く近くなりますね。
なぜ舌を切られても助かった?!
最後に、この物語の素朴な疑問を1つですが、「舌を切られたのに、なぜ雀は助かったのか」を感じたこと、ないでしょうか。
舌切り雀の話は、いろいろなバージョンがありますが、どうして雀が助かったのかまで書かれているものは少ないようです。
上の方で見た「小池藤五郎」の研究では、江戸が明治の黒本(黒い表紙の出版物)で「家蔵」という人が舌切り雀を描いていて、その中に「私の舌は薮井竹庵さまのお薬で治りました」とあるようです。
舌切り雀に関して様々な研究をした「小池藤五郎」ですが、これぐらいしか情報を残してないところを見ると、「舌を切られた雀はなぜ助かったのか」は、どのバージョンでも物語の要素としては特に重要視されてない、ということにもなりそうです。
(私は気になったんですけどね(笑))
まとめ
- 舌切り雀は、優しいお爺さん、欲張りなお婆さんと、舌を切られた雀の物語。
- 原作としては、鎌倉時代の「腰折雀」まで遡ることができ、この時は「隣同士のお婆さんと腰を折った雀」のお話し。
(雀が恩返しで瓢箪(ひょうたん)の種を持って来て、親切なお婆さんが裕福になる話し) - 舌切り雀は、舌を切られても助かったのはお薬。
舌切り雀の物語は、多くの昔話と同様、さまざまなバージョンがあるようです。
物語の中で、お爺さんが雀を探しに行くシーンは特にかも知れませんが、お爺さんの冒険として、語り継がれる間にいろいろ脚色もしたくなる場面ですよね。
明治時代に入ると、子供向けの教育的な話として見直されたりして、残酷と思われるシーンなどは削除されたりマイルドな形に変化したようですが、原作から今日までどのように変化しているかも見ると、また楽しいですね。
関連)
【舌切り雀】本当はスズメが悪い?お爺さんについても考えてみた
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