シェイクスピアの「真夏の世の夢」(A Midsummer Night’s Dream)。
「真夏の夜の夢」とも呼ばれますが、4組のカップルと森の妖精たちを中心に繰り広げられる楽しいファンタジー物語。
原作は勿論ですが、劇や映画、また音楽の世界でも人気です。
今回は原作のあらすじから、原作のタイトルの邦題について、また物語に登場する森の妖精パックの有名な最後の口上とセリフについてまとめてみました!
真夏の夜の夢:物語の全体像
この物語はパッとみると結構複雑なので、
あらすじを見る前に、物語の骨格となるところを見ておきましょう。
- アテネの公爵「シーシアス」とアマゾン国の女王「ヒポリタ」
ふたりの結婚式があと4日と迫っている - 「ライサンダー」(男性)と「ハーミア」(女性)
若い恋人たち。ハーミアの父親は、娘と別の男性(ディミートリアス)との結婚を望んでいる。 - 「ディミートリアス」(男性)と「ヘレナ」(女性)
元恋人同士。ヘレナは今でもディミートリアスのことが好きだけど、ディミートリアスはハーミアに夢中。 - 妖精の王「オーベロン」と女王「ティターニア」
ふたりは子供をめぐって争っている。この争いが元となり「ライサンダーとハーミア」、「ディミートリアスとヘレナ」の関係に大混乱を呼び起こすが、その混乱が事態を収めることにもつながる。
物語はこの4組が繰り広げるドタバタ劇、という感じです。
これらを押さえて、あらすじを見ていきましょう。
真夏の夜の夢:あらすじを簡単に
結婚式の準備と恋の始まり
物語はアテネで始まります。
アテネの公爵「シーシアス」(テセウス)とアマゾン国の女王「ヒポリタ」(ヒッポリュテ)の結婚式があと4日と迫っています。
そうした中、「ライサンダー」と「ハーミア」という恋人たちがいますが、ハーミアの父親が二人の仲を反対してるんですね。
父親は、娘と「ディミートリアス」という別の男性との結婚を望んでいて、でも娘は父親の言うことを聞きません。
このディミートリアスという男性、ハーミアの友人ヘレナの元恋人。でも今はハーミアに夢中です。
困った父親、アテネの法に基づき「父の意向に従わない場合、死刑か修道院へ行くことになる」ということを、結婚式があと4日と迫っているアテネの公爵「シーシアス」に相談すると、結婚式までの4日を猶予として考えろ、ということで話がまとまってしまいます。
ハーミア、絶体絶命!
そこで恋人のライサンダーと一緒に森へ逃げることになりますが、ハーミアに夢中なディミートリアスもそれを追いかけ、さらにディミートリアスの元恋人のヘレナも後を追いかけることに。
森の中の魔法と混乱
4人が向かった森の中では、妖精の世界が広がり、妖精の王「オーベロン」と妖精の女王「ティターニア」が、ある人間の子供を巡って大喧嘩中。
女王ティターニアは母親のように子供を可愛がっていて、でも妖精王オーベロンは自分の家来としてたいということで、ぶつかってるんですね。
そこで妖精の王オーベロンは策を考えた。
妖精のパックを使い、女王ティターニアが目覚めたときに最初に見るものに恋をさせる魔法をかけさせます。
つまり女王ティターニアの注意を、子供から他のものへと向けさせる作戦ですね。
(子供から注意がそれればしめたもの。うっしっし、という感じでしょう)
でもこの魔法がとんでもない方向へ。
妖精パックが間違って、森の中に来たライサンダーとディミートリアスに魔法をかけてしまい、二人とも最初に見たヘレナに恋をしてしまいます。
(ヘレナから見たら、今でも好きな元恋人ディミートリアスから好かれるのは良いことですが、ライサンダーからも好かれてしまって大混乱。ライサンダーの恋人ハーミアを入れると、すごく複雑な4角関係が勃発?!)
妖精パックはこれだけでなく、森の中の職人ボトムの頭をロバに変えてしまい、目覚めた女王ティターニアはこのロバ頭のボトムに一目惚れ。(なんてこったい 笑)
森の中は、もう何が何だか分からない状態に陥ります。
魔法の解除と幸せな結末
でも、妖精王オーベロンが、これはちょっとまずいな...ということで、魔法を解いてすべてを元に戻します。
ライサンダーとハーミアも元に戻り、また恋人同士に。
ディミートリアスとヘレナも元に戻りましたが、ディミートリアスがヘレナを好きになったことはそのままです。
魔法によりディミートリアスの心の中にヘレナへの愛が再び呼び起こされ、その想いが魔法が解けた後も続いていたんですね。(つはりハーミアへの気持ちは一時の迷いで、心の底から思っていたのはヘレナだったということになるのかな?)
そしてアテネの公爵「シーシアス」により、「ライサンダーとハーミア」、「ディミートリアスとヘレナ」の二組のカップも同日に結婚式を挙げることが認められ、3組のカップルの盛大な結婚式が行われましたとさ。
めでたし、めでたし。
パックの口上やセリフについて
物語の終わりには、
大混乱を引き起こした森の妖精パックが1人語りを行いますが、その口上のセリフが有名ですね。
物語は複数のカップルの恋愛と森の妖精の王、王女、職人などが魔法によって混乱し、でも最後にはそれも解消してカップルたちの結婚、という形で幕を閉じます。
すべてが解決されたのち、パックが独白を行いますが、これには読者、そして劇の見る観客に対して「もし物語が不快なものであれば、ただの夢と思って忘れて欲しい」と語るもの。
ただ日本では、こうした位置づけの独白ということで有名なだけでなく、そのセリフの日本語訳が秀逸で、更に有名になっている、という感じもあります。
<原文>
If we shadows have offended,
Think but this, and all is mended,
That you have but slumber’d here
While these visions did appear.
And this weak and idle theme,
No more yielding but a dream,
Gentles, do not reprehend:
if you pardon, we will mend:
And, as I am an honest Puck,
If we have unearned luck
Now to ‘scape the serpent’s tongue,
We will make amends ere long;
Else the Puck a liar call;
So, good night unto you all.
Give me your hands, if we be friends,
And Robin shall restore amends.
<日本語訳>
我ら役者は影法師、
皆様方のお目がもしお気に召さずば
ただ夢を見たと思ってお許しを。
拙い芝居ではありますが
夢に過ぎないものですが
皆様方が大目に見、
お咎めなくば身の励み。
私パックは正直者
幸いにして皆様のお叱りなくば
私も励みますゆえ、
皆様も見ていてやってくださいまし。
それでは、おやすみなさいまし。
皆様、お手を願います、
パックがお礼を申します。
この日本語訳は、
英文学者 小田島雄志さんによるもの。(シェィクスピア全集Ⅲ(白水社,1975))
小田島雄志さんは、学生時代には詩人を目指していたり、駄洒落を翻訳に取り入れたりしたりする方ですが、このパックの口上の訳は、その後の定番となっているようですね。
一番のポイントは、出だしの「我ら役者は影法師」という、何かカッコいいフレーズというか、劇がかったキメ台詞、みたいなところになるでしょう。
このパックの口上は有名ですが、
物語の内容を知らずにこの口上だけを見ると、セリフの途中にある「as I am an honest Puck」(自分は正直者だ)と言っているところに少し違和感を感じるかもしれません。
物語中のパックは、いたずら好きで思わぬ行動をするキャラとして描かれてますが、物語の終わりにあたり、「いや、自分は本当は正直者で、今言っている言葉も本心から言ってるんだよ」という誠実さを示したいがためなのでしょう。
読者や観客から見れば、パックの最後の口上から物語を優しく終わることもでき、また、パックというキャラに深みを増している(本当やそういうやつだったんだ、みたいな)とも取れる最後のセリフになってますね。
日本のアニメ「リゼロ」(Re:ゼロから始める異世界生活)にもヒロインのエミリアを護る猫の姿をした「大精霊のパック」が登場しますが、このパック、シェイクスピアの真夏の夜の夢のパックとキャラが結構かぶります。
【KADOKAWAanime公式チャンネルより】
真夏の夜の夢のパックがモデルになってるかもしれませんね。
真夏の夜の夢:邦題について
最後に、シェークスピアのこの物語の日本語のタイトルについて。
日本語のタイトルでは「真夏」ではなく単に「夏」として「夏の夜の夢」になってる場合が多いようですね。
WIKIの説明を見ると、これには以下の理由があるようです。
- 原題は「A Midsummer Night’s Dream」
- この「Midsummer」だけを見ると、「盛夏」または「夏至」(6月21日頃)を意味し、”Midsummer Night” は6月24日の聖ヨハネ祭の前夜を指す
- シェイクスピアの物語では、4月30日の五月祭の前夜に設定されている
- この時期の不一致について、”midsummer” が実際の季節ではなく、狂乱や狂気を意味するという解釈がある
- 日本では、最初は「真夏の夜の夢」とされていたのが、日本の「真夏」にあたらないと考え、「夏の夜の夢」と訳された(1940年 英文学者の土居光知による)
現状は「真夏の夜の夢」とされる場合が多いようですが、そうした中でも「真夏」を使うものもあり、また1999年公開のアメリカ映画「A Midsummer Night’s Dream」の邦題は「真夏の~」になったり、メンデルスゾーン作曲の「Ein Sommernachtstraum」(英語でA Midsummer Night’s Dream)も「真夏の~」と訳されてます。
まとめると、
- 文学作品では、物語の内容を重視するため、内容とタイトルの時期の不一致を意識して「夏の夜の夢」とされる場合が多い
- 映画や音楽の世界では、伝統的に使用されている「真夏の夜の夢」とされる場合が多い
ということになりそうです。
ちなみに松任谷由実さんが「真夏の夜の夢」というタイトルで曲を出してますね。
【松任谷由実さんOFFICIALより】
ドラマ『誰にも言えない』(1993年)の主題歌になったことから、特にサビの部分を聞くと「あ、これ知ってる!」という方も多いと思います。
何か陽気で怪しい雰囲気と、思わずステップを踏みたくなるようなリズム。1993年といった当時の時代を反映してるかのような何か懐かしい感じもあり、記憶に残る曲、という感じですよね。
この曲は当時シングルとして発売され、ドラマの主題歌にもなったことが大きく影響していると思いますが、松任谷由実さんの最大のヒットシングルとなっているようです。(2023年4月時点)
※)作詞・作曲:松任谷由実 編曲:松任谷正隆
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