『スーホの白い馬』は、モンゴルの民話をもとにした物語。
モンゴルの民話が中国で「馬頭琴」という物語となり、その物語を元に日本で「スーホの白い馬」として知られるようになったんですね。
小学校では2年生の教科書に登場するこの物語。
貧しい羊飼いと白い馬の感動的なお話ですが、
あらすじや、本当の話との違い、経緯など、まとめました。
スーホの白い馬:あらすじを簡単に!
まずは「スーホの白い馬」のあらすじから。
物語の主人公はモンゴルの草原に生きる、羊飼いの少年「スーホ」。
貧しいながら心優しいスーホはおばあさんと一緒に暮らしてます。歌も得意で、毎日羊の世話をしながら、その美しい歌声で草原を彩っていました。
ある日の夕方、
スーホが家に帰る途中、小さな白い馬が倒れてるのを見つけます。
「え?持ち主はどこだ?母馬もいないぞ!」
「このままだと、夜には狼に食べられてしまうかもしれない!」
心優しいスーホは、これは大変!と、
子馬を抱きかかえ、自宅に連れて帰ります。
これがスーホと白い馬の出会いだったんですね。
スーホはこの子馬に「ツァス」(またはハルハ)と名付け、愛情深く育てます。子馬のツァスもやがて立派で美しい白馬に成長します。
スーホと白い馬はお互いがもう大好き!
本当の家族のように深い絆も芽生えてました。
そんなある時、ビッグニュースがモンゴルの草原を駆け巡ります。
なんと地元の殿様が「馬の速さを競う大会」を開催し、「優勝した者は殿様の娘との結婚を約束する!」と発表するんですね。
これには羊飼いたちも大盛り上がり。
スーホは自慢の白馬ツァスに乗り、大会に参加することになるんですね。
大会では、スーホと白馬ツァスが他の馬を後ろに、さっそうと駆け抜けます。
見事に優勝!
殿様もニコニコで優勝者を呼び寄せますが、
羊飼いのスーホを見た途端にその態度も激変です。
「なんだ、こいつは。こんなみすぼらしい若造に自分の娘をやれるものか!」
なんと殿様、スーホが貧しい家の出であることを理由に約束を破ってしまいます。
「ほれ、この銀貨を受け取り馬を置いて帰れ!」
なんと殿様、スーホの白い馬を奪い、スーホを追い払らおうとします。
「どういうことだ!僕のツァスを返せ!」
抵抗するスーホは殿様の家来に殴る蹴るをされ、ボロボロに傷つき、友達の手を借りて何とか家に帰ります。
ツァスが奪われてしまった...
嘆き悲しみの中に沈むスーホ。
一方、殿様は笑み満々の得意満々。
手に入れた美しい白馬を自慢したくて自慢したくて、皆に見せびらかそうと宴会を開きます。
ところがその宴会で殿様がツァスにまたがると、ツァスは大暴れ!殿様を振り落とし逃げ出します。
これには怒った殿様。
「捕まえろ!捕まえられないなら、矢を打ち殺してしまえ!」
何本もの矢がツァスに打たれ、その体に突き刺さります。それでもツァスは止まらない。流れ出る血、痛みを必死にこらえてスーホの家にたどり着きます。
「ツァス!戻ってきたんだね!」
でもスーホのその白い馬は、その時すでに命の炎も消えそうな瀕死の状態。
「ツァス。死なないでおくれよ...」
白い馬はスーホの腕の中で息を引き取るのでした。
深い悲しみに暮れるスーホ。
でもある夜、夢の中でツァスと再会します。
「スーホ、悲しまないで。私の骨や皮、毛を使って楽器を作っておくれよ。そうすればいつでもそばにいられるから」
夢からさめたスーホ。「そうだね、君の願い通りにしよう」。
スーホはツァスの言葉どおり、馬の体をつかって楽器を作ります。
この楽器が後に「馬頭琴」と呼ばれることになりますが、この楽器を弾くたびに、スーホは白い馬と過ごした楽しい日々を思い出し、その悲しみや喜びを音楽に込めました。
馬頭琴の美しい音色はやがてモンゴルの草原中に広まり、多くの人々の心を癒したのでした。
本当の話はどうなってる?
この物語は、元々はモンゴルの民話。
モンゴルでは「フフー・ナムジル」という名で知られているようですが、「スーホの白い馬」とはかなり内容が異なります。
フフー・ナムジルのあらすじ
昔々モンゴルに「フフー・ナムジル」という名の遊牧民の青年がいた。
フフーナムジルは歌がとても上手なことで有名で、その歌声は草原一体に響いていた。
ある時、ナムジルは徴兵により兵隊さんとして兵役につきますが、そこで幼いころに出会った少女、その少女が成長した美しい女性「アルタンツェツェグ」に再び出会います。(運命の出会い!)
女性はフフーナムジルの歌が大好きで、やがて二人は恋に落ちます。
兵役も終わり、ナムジルが遠くの故郷に戻る時、アルタンツェツェグは恋人ナムジルのために黒くて立派な馬をプレゼント。
「遠い故郷に帰っても、
この馬でいつでも私に会いに来てくださいね」
この黒い馬の名は「ジョノンハル」。
ジョノンハルはどの馬よりも速く力強く走り、
夜になると翼が生えて空をも駆ける不思議な馬。(ペガサスのようですね)
ナムジルは故郷に帰った後も愛する女性「アルタンツェツェグ」に毎晩のように会いに行ってました。
ナムジルは歌の名手で想いを寄せる女性も多かったようです。近所の家の娘もまたナムジルに恋心を抱いてましたが、ナムジルが毎晩馬に乗って恋人に会いに行っているのを知ってしまいます。
「なんてこと!悔しい!」
嫉妬にかられたその女性、
「馬さえいなければ...」
と馬を逃がすことを企みますが、
ナムジルが帰ってきた夜、馬に翼が生えているのを見てしまいます。
「あの翼を切ってしまえ!」
その女性はなんとジョノンハルの翼を斧で切ってしまい、それが元でジョノンハルは死んでしまいます。
翌朝ナムジルはすでに冷たくなった愛馬ジョノンハルを見つけ、悲しみに打ちひしがれるのでした。
でも悲しんでばかりはいられない。
フフーナムジルは愛馬の追悼の意を込め、楽器を作ることを思い立ちます。
愛馬ジョノンハルの頭の形を木で彫り楽器の頭部とし、長い柄を付け、ジョノンハルの皮を張り、絹のような尾で弾き音を出す。
まるでジョノンハルが歩き、駆け、いななく、正にその音が聞こえてくるようで、ナムジルはこの楽器で愛馬ジョノンハルを想うのでした。
このお話は、以下東京外語大学で行われたモンゴル語劇「フフーナムジル」のお話に基づいたもの。
多くの民話と同じように、モンゴルでは「フフーナムジル」のお話にはいろいろなバリエーションがあるようですね。
物語に出て来る馬の名前をタイトルとした曲「ジョノンハル」(ジャラムハルとも言われるようですが)も伝わっているようです。
この動画ではその曲が披露されてますが、日本最大のモンゴル祭り「ハワリンバヤル」(2017年)の時のもののようですね。
モンゴルの人から見ると「スーホの白い馬?知らない。あぁ馬頭琴の話ね。でもスーホって誰?馬が白いの?翼もない?王様に殺されちゃうって?話が全然違う!」と言う感じになるようです。
中国の物語「馬頭琴」
日本で知られる「スーホの白い馬」の元になっているのは、上で見た「フフー・ナムジル」の物語ではなく、「フフー・ナムジル」の物語から作られた中国の「馬頭琴」という物語。
モンゴル「フフー・ナムジル」
(主人公の名は「フフー・ナムジル」。黒い馬。兵役、三角関係。馬の翼を女性に切られ死んでしまう。)
↓↓↓↓↓↓
中国「馬頭琴」
(主人公は「スーホ」。17歳の青年。白い馬。王様に殺されてしまう)
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日本「スーホの白い馬」
(主人公は「スーホ」。少年。白い馬。王様に殺されてしまう)
中国の「馬頭琴」というお話は、モンゴルに伝わる民謡を整理して(いろいろなバリエーションがあるからですね)新たに創作されたもの。
中国でこの物語が創作され知れ渡ったのは1950年代。
その直前、中国では共産党と国民党が睨み合い、1949年に共産党による中華人民共和国が成立しています。(国民党は台湾に逃れ台湾の統治を継続(中華民国))
大きな過渡期を経験する中、中国は社会主義国家(支配する(搾取する)/支配される(搾取される)、ではなく、みんな平等という国)を目指し、その思想を広めようとしたところ放牧民はあまり関心を持ってくれない。
そこでモンゴルの民話という身近な物語をベースにこの「馬頭琴」が創作されたようです。
参考)スーホの白い馬 – 馬頭琴が制作された理由(wiki)
- 「フフー・ナムジル」という主人公の名は、モンゴル語でハンマー(槌)を意味する「スホ」に漢字を当てて「蘇和」(読み:スーホ)となり、年齢も17歳と明確にされたり、
- 翼のある黒い馬を平和のシンボルとして「白い馬」に、
- 恋愛ものではなく殿様(権力者/搾取するもの)と放牧民(労働者/搾取されるもの)との対比
という形に変ります。
※)「スホ」の意となるハンマー(槌)は共産主義や共産党のシンボル「鎌と槌」(かまとつち)の「槌」。鎌が農耕者でハンマー(槌)が工業労働者を意味し、それらの団結を示すシンボル。
あらすじは、基本は「スーホの白い馬」に同じすが、「スーホの白い馬」が子供向けのため、政治色を薄めたりして微妙に設定などが異なるようですね。
- 「スーホの白い馬」ではスーホは少年、「馬頭琴」では少し年齢の高い17歳。
- 「スーホの白い馬」ではスーホは貧しい羊飼い、「馬頭琴」では羊を20頭ほど飼っている
- 「スーホの白い馬」では、馬の競争は町で行われ、「馬頭琴」では寺院(ラマ廟)で行われる(僧侶も殿様同様、支配階級と思われていたことからのようです)
- 「スーホの白い馬」では、物語の最後でスーホが馬頭琴を弾くと楽しい思い出がよみがえり、「馬頭琴」では愛馬を殺された憎しみも現れる
この馬頭琴の物語を実際に読んでみたい場合には、以下が参考になりそうです。
※)中国語で書かれてますが、自動翻訳で日本語に変換して読んでみると大体わかります。
ハルハとツァス
最後に、ちょっと気になる「馬の名前」。
「スーホの白い馬」では、馬の名が「ツァス」と「ハルハ」の2つがありますね。
元々モンゴルの民話、その後の中国の「馬頭琴」では馬には特に名がなく、「馬頭琴」を元にして日本で紹介された時も名は付けられず、単に「馬」「白馬」とか「白い馬」などで表現されていたようです。
その後、学習教材として教科書にこの話が載るようになり、その時、白い馬は「ハルハ」と名付けられたとか。
上の方で見たように、元々のモンゴルの民話の中での馬の名は「ジョノンハル」。この名前の「ハル」から「ハルハ」としたのかと想像できそうです。
でもこの「ハルハ」、モンゴルの民族「ハルハ族」の名でもあり「馬の名としては適切ではない」ということで、一時期また単に「白馬」とか「白い馬」と物語の中では呼ばれるようになったのだとか。
その後NHKのショートアニメでこの物語が紹介された際、「ツァス」という名が新たにつけられたようですね。
ちなみに「ツァス」はモンゴル語で「雪」を意味するようで、物語に登場する白い馬が、雪のように白い美しい馬、ということからこの名前を付けたのでしょう。
まとめ
- 元々はモンゴルの民話「フフー・ナムジル」。それを元に中国で「馬頭琴」という名の物語になり、それを元に日本で「スーホの白い馬」となった。
- 大元の本当の話では、フフー・ナムジルという遊牧民の青年と翼をもつ黒い馬、嫉妬した女性が馬の翼を切り落としてしまい、最後に馬頭琴という楽器を作る物語
- 中国版の日本語版では、話しは基本は同じ。日本語版では政治色が薄められ子供向けの内容になっている。
- 「スーホの白い馬」では、馬の名前は2つあり、「ハルハ」または「ツァス」。NHKが「ツァス」と名を付けたためか、最近は「ツァス」が使用されているようだ。
スーホの白い馬の物語は、モンゴルの中に生きる少年と愛馬の白い馬との悲しい物語。
失われた命が最後に馬頭琴という形に生まれ変わりますが、主人公の気持ちを考えると、とても切ない物語ですね。
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