「ガリバー旅行記」はジョナサン・スウィフトによる冒険物語。
ガリバーが小人の国、巨人の国(大人の国)、天空の国(ラピュタ)、馬の国と4つの冒険をしますが、それぞれに人間や社会に対するスウィフトの風刺画描かれてます。
ここでは4つの国の冒険についてあらすじを簡単に、でも物語が分かるように少し詳しくご紹介。
またそれぞれの冒険の意味や結末もあわせて見ていきましょう!
小人の国のあらすじ
遭難して小人の国へ
主人公の名は「レミュエル・ガリバー」。
1699年5月、イギリスからインドに船で向かう途中、大嵐で船は真っ二つ。ボートで逃れますが、気が付けば一人海岸へたどり着いていたのでした。
ガリバーは疲れ果て深い眠りに落ちますが、目覚めると身動きがまったく取れない。
なんだ、なんだ?!
一体どうなってるんだ?!
ガリバーがたどり着いたのは
ギュー皇帝が治める小人の国「リリパット」。
15cmほどの小人たちがガリバーの体中にひもを張り巡らし地面に括り付けてるではありませんか。
(小人を150cmにして考えると、ガリバーの身長が170cmとした場合、小人から見ればガリバーは17mぐらいでビルの4階か5階ぐらいの高さの巨人。進撃の巨人に出て来る大型の巨人ぐらいの高さになりそう)
ガリバーはその後は特別に建てられた建物に閉じ込められますが、敵意を見せず小人たちに対して優しく接し、次第に交流が始まります。
ガリバーの1日の食事はなんと小人たち1,724人分。
(学校で1クラスが30人とすると約60クラス分の量!)
リリパット国ではガリバーは丁寧に扱われ、そうした大量の食事も毎日用意され一安心。
カカトと卵
小人の国の学者に言葉も教わり、最初こそ恐れていた小人たちや更には皇帝もガリバーのことが気に入り、やがて皇帝への誓約の元、自由に動けるようにもなりました。やったね!
誓約には「国の事業を助けること」(公園や外壁をつくることなど)、「隣国ブレフスキュ国との戦いを助けること」などがありましたが、
お安い御用さ。
これで自由になれる!
ガリバーは喜んで皇帝と約束するのでした。
このリリパット国、
実は「カカトの高さ」と「卵の食べ方」で、大きな2つの問題を抱えてます。
1つは隣国ブレフスキュとの戦争、
もう1つは国内の2大政党の争い。
皇帝と2大政党が国の政治を動かしますが、
この2大政党は「靴のカカトの高さ」が「高いか低いか」で区別れてます。
古くから「カカトの高い方がよい」とされていたところに皇帝が「低い方を良し」とし、でも皇太子は高い方を支持してたりして、争いは激化。
また卵を食べる時「卵の細い方(尖っている方)」「大きい方(丸みを帯びている方)」のどちらを先に割るのかも古くから争いの元にもなっていて、皇帝は「小さいほうから食べよ」と勅令まで出す始末。
「小さい方から食べるぐらいなら死んだほうがまし!」という国民もいて、処罰を恐れ隣国ブレフスキュに逃げ込み、ブレフスキュ国の皇帝が手厚く保護するなど、これが元で今では戦争状態にもなってしまってます。
戦争を解決するガリバー
戦争は大船小舟の艦隊が激突し、
双方何万人という兵士を失うぐらいの大規模なもの。
この話を聞いたガリバーは
自分なら解決できると皇帝にこう話します。
私が敵艦隊を全て捕えてまいります。
任せなさい!
ガリバーはリリパットの民たちに鋼のひもや針を作らせ、ブレフスキュ国の港にある戦艦をまるで布に針を通すように端から端へと1つにつなげ、リリパットの港まで引っ張って来てしまうんですね。
これではブレフスキュ国は戦争が出来ない。
リリパット国の皇帝も大喜びで、
この調子でブレフスキュ国を属国にしてしまおうと
「残りの船も全部持って来てほしい」
と頼みますが、
そこまでするか?とガリバーは断ります。
皇帝も諦めますがこれが火種となり、
後にガリバーを窮地へと追い込むことにもなりました。
船を奪われたブレフスキュ国は、リリパット国に和睦を持ち掛け戦争もやっと落ち着ちつきますが、和睦のために訪れた使者をガリバーはとても親切に面倒をみます。
(戦争のことはおいといて、ブレフスキュ国の小人たちも悪い人たちではないと考えたんですね)
使者たちは、ブレフスキュ国の皇帝もぜひ一度会いたいと言っているから来てはくれまいか、とガリバーに頼みます。
ガリバーのこのブレフスキュ国行きについてはリリパットの皇帝は許したものの、ガリバーがブレフスキュ国の使者に優しくしていたことから「ブレフスキュ国側に寝返るのでは?」と耳打ちするものも出て来て心配します。
宮殿の大火事をとんでも解決
そんな時、宮殿が大火事になる大事件が発生。
火事だー!
宮殿が火事になってるぞ!
急いで宮殿にかけつけると、小人たちが一生懸命消火してますが、なんせ火の手が大きすぎて焼け石に水状態。
そこでガリバーがとんでもないことを思いつく。
そうだ!
おしっこをかけて消火しよう!(えへ!)
とんでも発想ですが、この考えは大当たり!
3分とたたずに火は消え宮殿は救われますが、実はこの国では「理由はとわず宮殿で立小便をするものは死刑」と決まってます。
さぁどうなるガリバー!
皇帝は致し方なかったことと許しますが皇后さまはカンカン(笑)
もうこんなところには住めぬと
宮中の一番遠い場所へと引越ししてしまいます。
こうしたことから大臣の一部もガリバーを悪く言うものも出て来るし、敵国との戦争では手柄を横取りされたと海軍提督もガリバーの事が大嫌い。
逃げろガリバー!
これらの事情が重なり、大臣や提督から弾劾文書(罪を訴える文書)が提出され、ガリバーを排除しようとする動きが出てきます。
- 宮殿が火事の時、それを口実に宮殿で立小便をした!
- ブレフスキュ国の艦隊を引っ張ってきた時、残りも持って来いという皇帝に対し断った!
- 敵国の使者に優しくしたのは、我が国に対する反逆行為!
- 皇帝の許可を真に受け、ブレフスキュ国へ行く準備をし、かの国を助けようと企んでいる!
皇帝は「まぁ大目に見てやれ」というものの議会は大荒れです。
結果「命までは取らぬ」「でも罰として矢で失明させる」ということになり、ガリバー大ピンチ!
勿論ガリバーを良く思う大臣もいて、
その話を密かにガリバーに伝えるのでした。
それは一大事!
これは逃げ出すしかない!
ガリバーは急いでブレフスキュ国へと渡るのでした。
見つけたボート
ブレフスキュ国ではガリバーを総出で大歓迎。
ガリバーは「リリパット皇帝から許しを得たこと」、「自分に出来ることは何ですること」をブレフスキュ国の皇帝に告げしばらく滞在することになりますが、ここで思わぬものを見つけます。
海岸を散歩していると、
なんと嵐で船から流されたであろうボートが沖の方に浮かんでるではないですか。
ガリバーは皇帝の力も借り、
海岸へとそのボートを引っ張り皇帝にこう告げます。
天の助けでボートが手に入りました!
これで自分の国に帰れます。
出発の許可をください!
ブレフスキュ国の皇帝はガリバーを引き留めますが、ついには許可を出すのでした。
ガリバーは500人の職人、船大工の力も借りてボートを修理し、イギリスを出た2年と4か月後となる1701年9月20日の朝、そのボートでブレフスキュ国を出発。
その6日後には運よく通りかかったイギリス商船に救助され、翌年4月にはイギリスのダウンスに無事到着したのでした。
イギリスに戻って来れたガリバーですが、もっといろいろ外国を見たいと次は商船『アドベンチュア号』の乗組員として再び航海の旅へ出たのでした。
そしてお話は「巨人の国」へと続きます。
小人の国の意味は?
この小人の国の物語は、当時のイギリス・フランスの2国間の争いやイギリス国内の争いなどを風刺しているとも言われるようですね。
- リリパット国とブレフスキュ国の争い:
この二国間の争いは、当時のイギリスとフランスの長期にわたる対立を風刺し、スウィフトは外交政策における国家間の愚かな争いの無意味さを描いていると言われてます。 - 「高いかかと」と「低いかか」との党派争い:
カカトが低い/高いで政党争いをしているリリパット。この争いは、当時のイギリスにおけるホイッグ党(自由主義的な価値観を支持)とトーリー党(伝統的な価値観を支持)の対立を象徴し、政策や本質部分ではなく表面的な違い(靴のかかとの高さ)で国が分裂する愚かさを風刺しているとも言われます。 - 「卵を割る方法」の争い:
卵のどちらの端を割って食べるかでは、宗教や伝統の名の下に行われる争いに対し、人々がどれほど些細な違い(教義や儀式の実施法などにおける解釈や実施方法の違いなど)にこだわり、それが大きな争いに発展するかを描いているとも言われます。
ガリバーが(小人たちから見て)巨人となることで身体的優位性(つまり権力)を持つわけですが、それ(権力)は絶対的なものではなく、また、権力を持つものがその力をどう使うかで恩恵にもなり脅威にもなり得ること、使った結果に対して倫理的責任を持つべきなどを示唆している、ということも言えそうです。
巨人の国のあらすじ
小人の国から無事イギリスに帰国したガリバー。
その2か月後にはまた新たな冒険を求める航海へと旅立ちます。
巨人に見つかる!
今度の航海も嵐にあい、
押し流されてどこにいるのかもわかりません。
食料は十分にあるけど水がない!
辺りを見渡すと陸が見えますが、そこが巨人の国でした。
そうとは知らず何人かの船員とともに上陸して水を探しますが、ガリバーは他の船員とは別の方向へ行き探します。
すると他の船員がボートにのって大急ぎで船に戻って行く!
おいおい、
俺はまだここにいるぞ~
待ってくれ~!
よく見ると、恐ろしく大きな怪物(人)がボートを追っかけているではないですか。
ガリバーは、こりゃ大変とばかりに山の中と逃げ込みますが、辺りに生えている草はなんと6mの高さ!道だと思ったら実はそこは畑の中の小路でした。
その内、雷のような大声とともに巨人が出て来て、巨大な鎌をで畑を刈りだします。
巨人はその畑の主と使用人たち。
これはやばい!
ガリバーは逃げ出しますが、
巨人たちはどんどん迫り、
足で踏まれるかもと危機を感じたガリバーは大声で叫びます。
助けてくれー、助けてくれー、
お願いだー、助けてくれー!
大声で喚き散らすガリバーに気が付いた使用人の巨人。
なんだこれ?
ガリバーを指でつまんで持ち上げますが、
ガリバーが何かしゃべっているような様子から、これは面白い生き物を見つけたと、主人の元に駆けつけます。
主人もガリバーの話す奇妙な言葉や身振り手振りに、これは面白いと家に持ち帰るのでした。
優しい家族たち
家で妻にガリバーを見せると、
ガリバーがいろいろな事をするのを見て、すっかり気に入ります。
肉やパンを小さく刻んで食事を用意してくれたり、いろいろ世話を焼いてくれるんですね。
ただ、妻が赤ん坊にお乳を上げる時、
ガリバーからは胸が巨大でありまた拡大され見えすぎて、凸凹やおでき、しみなども見え、綺麗なものも近くで見れば醜くも見えると、小人らしく感じたりします。
この家族には九歳になる女の子がいて、
母親とともにガリバーのために寝床を用意し、ネズミに襲われないように箪笥の小さな引き出しに入れてくれたりと、いろいろ世話をしてくれます。
この娘がいたからこそガリバーはこの巨人の国で生き延びることができ、この国における正にガリバーの母親のような存在。
ガリバーは彼女の事を「グラムダルクリッチ」(小さなママ)と呼びます。
娘はガリバーの服や下着などを作れば言葉も教えてくれたり、またガリバーに「グリルドリッグ」(小人ちゃん)という名も与えます。
※)名前の意味について:
「グラムダルクリッチ」(小さなママ)は巨人の国の言葉。英語では「a little nurse」と表現され「可愛いお乳母さん」と訳されるてるようだ。
ガリバーに「グリルドリッグ」(小人)という名も付けたことから、「グリルド」が男性名詞につける「小さい」、「グラムダルクリッチ」の「グラムダル」が女性名詞に付ける「小さい」と想像できそう。
見世物にされるガリバー
この不思議な生き物(ガリバー)の噂はすぐ広がり、家には色々な人が訪れますが、ある人の眼鏡を通して見える目が面白くてガリバーが大笑いしたところ、「見世物にしてしまえ」など意地悪なことを主に吹き込みます。
可愛がっているガリバーが見世物になってしまうと娘は嘆きますが、父親はすっかりその気になり、父親、娘、ガリバーの、町から町へと見世物をしながら首都をめざす旅が始まります。
あまりの評判にガリバーは休む日もなく、
首都に着いた頃には食欲もなくやせ細りますが、主はガリバーを休ませるどころか、生きている内にもっともうけよう!など考えるんですね。
王宮へと呼ばれる
そんな時、ガリバーの評判を聞きつけた王妃から、ガリバーをつれて来いと使者が訪れます。
ガリバーを見た王妃は、ガリバーの物腰や態度から大変面白がられ、
ここに住む気はないか?
と尋ねますが、これにはガリバーは大喜び。
主もガリバーはあと1か月もたないと、
王妃に大金をふっかけガリバーを売り飛ばす!
ガリバーは、小さなママ・グラムダルクリッチも宮廷で自分の世話と教師をさせて欲しいと願い出ると、王妃は快くこの申し出を受け入れ、娘も大喜び。
そしてガリバーと小さなママの宮廷生活が始まるのでした。
宮廷での生活
宮廷では国一番の小さな男(それでも約9m)からの意地悪、ハエや蜂との格闘、馬車に乗って市街見物と、危険もある中、小さなママと共に楽しく過ごすガリバー。
ある時は猿にさらわれ、
何とか無事救出されますが、
私は全然平気だったんだ。
本当に怖いと思ったらこの短剣で叩きたぞ!
こういうガリバーに、お前は何を言ってるんだ、という感じで周りの人は大笑い。
なにか赤っ恥をかく、という感じですが、
力の差が歴然の相手にいくら立派に見せようとしても駄目だということも思います。
王妃はガリバーを大いに気に入り、
ガリバーがいないと食事もしないというほどになりますが、王様もガリバーを気に入ります。
王様はとても平和的であり、またこの国一番の学者。
この小さな生き物は一体何なのかと、
国の偉大なる学者を呼び寄せ研究もさせました。
学者たちはいろいろ説を唱えますが、
ある説を唱えれば他の学者が否定する。
全く意見がまとまらず、
最後には「自然の戯れ(たわむれ)」(つまり、自然が偶然に生み出した異常な生き物)と結論付けますが、これにはガリバーは猛反発。
いやいやいやいや、
私も故郷に帰れば、同じ背丈の人間が何百万といる。
動物も木も家も、みんな私の体と同じ割合になってるんだ!
ガリバーの説明に学者たちは「きっと元の主に教え込まれたんだろう」と笑いますが、国王は違った。
国王は元の主を呼び出し、
ガリバーと娘の3人で話しをさせてみた。
それを聞いていると、どうやらガリバーの言っていることは本当かも知れない、と思ったりするんですね。
そうした経緯もあり、
学者である国王はガリバーの話しに興味津々。
ガリバーは王様にヨーロッパの風俗や宗教、法律、政治などをお話ししますが、ガリバーの故郷であるイギリスのことや貿易、戦争、政党などを話すと大笑いされます。
人間なんていくら威張ってもつまらないものだ。
こんなちっぽけな虫けらでさえ真似ができるのだからな。
自分の祖国が侮辱されたと激オコのガリバー。
でも、ここの人々は人間の大きさに比例して何もかもが大きいこと、巨人たちから見れば故郷の貴族たちが上品に気取ってるのはちっぽけなことに見えるだろうことを思いもし、また、巨人の国に慣れた自分が今故郷に帰ったら同じように笑ってしまうのかもしれない、とも思ったりします。
またある時ガリバーは「火薬というものの作り方を知っている。ちょっと火をつければ人だろうが軍隊だろうが吹き飛ばすことが出来る」と王様に自慢します。
これには王様は仰天しながら、こう言うんですね。
お前のような虫けらが、よくもそんな恐ろしい考えを抱けるものだ。お前はそんなむごたらしい有様を見て平気でいられるのか。人殺しを自慢するのか。
そんなものは知りたくもない。
二度とその話はするなとガリバーに告げるのでした。
空へ海へ
そして運命の時がやってきます。
この国にやって来て丁度2年が過ぎたころ、
ガリバーは国王と王妃のお供で海岸の離宮へ旅行に行きました。
小さなママは風邪をひき一緒に行けず、
でも何かを感じたのかしきりに泣いてます。
ガリバーは専用の小箱(ガリバーのために作られた窓付きの素敵な小屋)で一緒に行くわけですが、離宮では付き人に頼んで海岸へその小箱をおろしてもらい、ひと時の休憩を取ります。
が、突然、箱がぐいぐい上に引っ張られる!
そして猛烈な速さで前に進む!
え?なになに?
誰か!誰かいないのかー!
小箱の窓から見えるのは空と雲ばかり。
そして時折聞こえる羽ばたきのような音。
ガリバーの入った小箱を鷲(わし)が捕まえ、空へと舞っていたんです。
突然羽音が激しくなったかと思うと小箱が揺れ出します。どうやら他の鷲と餌(小箱)の奪い合いがはじまったようで、そうかと思ったらいきなりものすごい音ともに急落下!
ドブン!
あたりが真っ暗になったかと思えば、
ゆらゆらと上がり、窓から光が差し込みます。
ガリバーの箱は海に落ちたようですね。
すると今度は何かが引っ張る。
助かるのか?そうなのか?
ステッキにハンカチを巻き、
窓からそれを出して振ってみるとこれがびっくり。
誰かいるなら返事をしろ!
と、聞こえる声はなんと英語です。
私はイギリス人だ!
助けてくれ!
おい人がいるぞ!
待ってろ、船大工が屋根に穴をあけるから。
丁度通りかかった船がガリバーの小箱を見つけてくれたのでした。
屋根に穴をあける?
そんなことはしなくていい。
ちょいと指でつまんで船長室までもって行ってくれ!
これには船員たちも大笑い。
そう、そこはもう巨人の国ではなく、普通の人の国。
ガリバーの小箱は船員から見たら大きな家のようなもの。とても指でちょういとつまめるようなものではなかったんですね。
その船はトンキン(ベトナム)からイギリスに帰る途中でした。
こうしてガリバーは無事故郷に帰ることが出来ましたとさ。
巨人の国の意味は?
この巨人の国では、最初の小人の国とは逆に、今度はガリバーが小人になります。
最初の小人の国では当時のイギリスの風刺とも言われますが、この巨人の国では、人間というものに対する風刺が色々書かれているようですね。
- 綺麗なものも近くで見れば醜いものだ:
最初の主の家では、その妻の胸の事や、あらすじには出てきませんが王宮で王妃の食事の様子を小人の視点で描き、肌の荒れや王妃がまるで怪獣のように食べる様を描写して、一見綺麗に見えるものも実は拡大して見れば醜かったりするものだ、という、美しさに隠れた醜さ、美しさは表面的なもの、というものを伝えているようです。 - 猿なんて全然平気:
宮廷では猿につかまって危険な目にあったガリバー。でも助けられた後「自分は全然平気だった。なんならやっつけられた」と言うと周りから大笑いされます。力の差が明らかなのに見栄を張るのは恥ずかしいことだと、人の小さな心を風刺しているようです。 - こんな小人でさえ真似できる:
王様にヨーロッパの貿易や戦争、政治などを話すと「人間はいくら威張っていてもつまらないもの。こんな小人でさえ真似ができる」と笑われてしまいます。
人は偉そうにしても所詮大したものではない、という、人の傲慢さを伝えているようですね。 - お前は人殺しを自慢するのか:
ガリバーは火薬や銃を得意げに話しますが、王様は不快感を示し「お前は人殺しを自慢するのか」と言われてしまいます。
当時のヨーロッパの争いに対し、本当にそんなことしてていいの?戦争に勝ってもそれは自慢できること?という思いを伝えているかもしれませんし、技術の発明に対して人がどのように扱うべきか警笛を鳴らしているともとらえられそうです。
スウィフトはこの巨人の国の物語を通して、
当時の社会や人間を風刺し「本当はこうなんじゃないの?」「本質的なことはこうしたところにあるのでは?」ということを伝えているようにも見えますね。
そしてガリバーの次の冒険は「天空の国」。
天空の国のあらすじ
巨人の国から無事故郷イギリスに戻ったガリバー。
再び更なる冒険をしたいと航海の旅へと出ますが、今度はイギリスからインド、インドからトンキン(ベトナム)、そして最終目的地は日本です。
空に浮かぶ島
インドからの航海でガリバーを乗せた船は嵐にあい(よく嵐にあいますよね(笑))、海賊船にも出会ってしまう。
海賊船の船長が日本人!
丁寧に受け答えしたガリバーは、
一人だけ小舟で逃げることを許されます。(やったね!)
一人海を漂うガリバーは無人島にたどり着きますが、これが運命の分かれ道。しばらくするとそれまで雲1つ無かった空が急に暗くなるのでした。
なんだ、なんだ?!
なにか巨大な塊がやって来るぞ!
見上げると、島のような巨大な塊が真上に来るではありませんか。
人影も見えるし階段もある。
釣りをしてる人もいる!
ガリバーが大声で叫ぶと、
その中の一人が身振り手振りで「海岸の方に行け!」と合図する。
行ってみると、
先に椅子の付いた一本の鎖が、空の島から降りて来るんですね。
ガリバーはその椅子に乗り、
空の上の島へと行くのでした!
ラピュタのおかしな人々
このラピュタという島は
直径 約7Kmもある空に浮かぶ島。
中央には島を浮遊させるための磁石があり、
この磁石の傾きで島をどれほど浮かすかを調整しています。
※)宮崎アニメ「天空の城ラピュタ」のラピュタは直径500mと推定されたりする。面積比で言えばガリバーのラピュタはその600倍以上も大きい。
国を治めるのは王様や貴族たち。
でも常に考え事をしていて周りの事は全く気にしないんです。
あまりに考え事に熱中するので「先頭に風船を付けた棒」を持つ召使いが主の口や耳を軽く叩いてあげないと、何にも気が付かないし、話しすらできません。
「数学」と「音楽」のみに熱心ですが、建っている家々も、みなゆがんでいるといった有様で全く役立っていない!
ガリバーの話す様々な国の法律や政治、風俗などには一向に関心をよせません。
なんてところだ。
こんな国は一刻も早く去ってしまいたい...
発明家たちの町:バルニバービ
ガリバーは王の許しを得て地上の大陸「バルニバービ」へと降り立ちます。
やったぜ!
ラピュタから解放だ!
ガリバーはさっそく市内見物へと出かけますが、家々もひどく奇妙で田畑も荒れ放題。人々の着る服もボロボロです。
一体どうなってるんだ?
この町はめちゃくちゃじゃないか。
どうやらラピュタからあの役に立たない数学を学び、「今までとは全く違う進んだものを学んだぞ!」「全てをやり直そう!」と「学士院」なるもの(つまり学校)を作り、それが全国に流行ってしまった(笑)
- 10人でしていた仕事が1人でできる道具。
- 果物はいつでも好きな時に収穫でき、100倍の量がとれる道具
- キュウリから日光を引き出す研究
- 人から排出されたものを食物に戻す研究
- 空気を乾かし塊にする研究
ほかにも、政党の争いを止めるために各議員の頭の半分を取り換えっこするなどなど、役立たない道具や研究ばかりですが、国民はそれを信じて大忙し。
こりゃ駄目だ...
もうイギリスに帰りたい...
魔法使いと死者:グラブダブドリブ
イギリスに帰る前に日本に寄ってみたいと、日本と同盟関係のあるラグナグ島へ行くことにします。
そこから日本行の船に乗ろうと考えたわけですが、ラグナグ島行きの船が来るまで近くにある魔法使いの島「グラブダブドリブ」へ訪れます。
この島を治める部族の長(おさ)は死者を蘇らせることのできる不思議な力を持ってるんですね。
死者とは話が出来る。
世界が始まって以来の今日まで、
誰でも呼び出すことができるのだ。
これに喜んだガリバー、
アレキサンダー大王、カルタゴの将軍ハンニバル、ローマの内戦で勝利したシーザーなど、紀元前の人物を次々と呼び出してもらいます。
うぉ、これは凄い。
本当はこうだったんだ...
目の前に繰り広げられる実際の様子にガリバーも大興奮!
他にも様々な死者を呼び出し、
今聞く話との違いをしっかり観察するガリバーでした。
- ホメロスとアリストテレス:
古代ギリシャの偉人ホメロスとその作品の評価をしたアリストテレス。さらに後年に解釈や説明を行った何百という学者たちを呼び出し、解釈の変化や誤解を学びます。 - ローマ帝国の将軍:
紀元前「アクティウムの海戦」で活躍したローマ帝国の将軍を呼び出し、政治的な理由で昇進せずに不当な扱いを得たなど、権力構造の不公平さを知ります。 - 近代ヨーロッパの著名人:
近代ヨーロッパで名を馳せた著名人を何人も呼び出し、彼らの業績や社会への影響の真実を聞き、名声や成功の背後にある複雑さを知ります。
なるほど...
時代と共に変化や誤解が含まれたり、
背景にはこうしたことがあったんだな...
ガリバーは5日間に様々な死者を呼び出し、
じっくり観察して学ぶのでした。
オランダ人と偽る:ラグナグ島
そして待望の船も来て、
日本に行くためにラグナグ島へと渡ります。
島に到着するとガリバーは役人に「自分はオランダ人だ」と偽りますが、これはこのあと日本へスムーズに行くことを考えたからなんですね。(当時オランダと日本は同盟国という設定)
ラグナグ国の王様と面会することになりますが、王様に会う時には王の前にひれ伏せ、床の埃を舐めなければなりません。
えぇ?本当に床を舐めるの?!
挨拶代わりの儀礼的な言い回しだと思ったのに...
もっともガリバーは外国人であり、床は綺麗に磨かれていたので大したこともなかったのですが、宮廷に良く思われてない人が来ると、最悪床に毒が塗られていることもあるのだとか。
(おぉ怖い...)
王もガリバーが凄く気に入り、
宮中の部屋を貸してくれたり、
毎日の食事に加えてお小遣いまでくれたりします。
このラクナグ島の人々は礼儀正しく、
気が付けば3か月も滞在するガリバー。
そうした中、この国にいる不死の人々「ストラルドブラグ」にも出会います。
不死の人々:ストラルドブラグ
この島では、稀に赤い円のあざを持つ子が生まれ、そのあざを持つ人は年をとっても死ぬことはありません。
人は死ぬことが恐ろしいから
いつも苦しんでいるというのに。
これはなんて幸せなことなんだ!
ガリバーはこの「ストラルドブラグ」に会い行き、その素晴らしさをとうとうと語ります。
私がストラルドブラグだったら
大いに努力して国一番の金持ちになるし
勉強して国一番の学者にもなる。
今解けない問題もいつ解かれるかも見れるのだ!
そう生き生きと夢を語るガリバーに、
ストラルドブラグからは「あなたは何もわかってない」と言われてしまいます。
ストラルドブラグは死ななくても年は取る。
歳を取れば頑固にもなり欲張りにもなり、
友人と楽しむこともなければ自然に愛情も感じられなくなる。ただただ嫉妬と欲望ばかりが強くなる。
若者を見れば若さに、
老人が死ねばその命の終わりに嫉妬する。
衰えながら不便にたえ、
それでも生き続けねばならない。
だからラグナグの国では長生きを望むものはいない、と。
そんな言葉にガリバーは自分の話した夢も恥ずかしくなり、長生きしたいという思いもすっかり冷めてしまうのでした。
ガリバーはラグナグの王に、もう国に帰りたいと告げ、王は快くお許しになり日本の天皇陛下への推薦状も書いてくれました。
日本へ到着!
15日ほどの航海を経て到着したのは、
日本の東南「ザモスキ」(Xamoschi)という小さな港町。
早速役人にラグナグ国王から天皇陛下への推薦状を見せると、町奉行へと渡り、江戸まで付き人付きの馬車で送り届けてくれました。
ラグナグ国王は天皇陛下の兄君にあたり、陛下は推薦状をうやうやしく見ると「願いがあれば何でも申せ」とガリバーに言われます。
ガリバーは通訳を通してオランダ語で話すわけですが、
私はオランダの商人。
船が難破しラグナグ国にたどり着き、
そこから日本に来た者。
日本とオランダは貿易を行っており、
その船でヨーロッパに帰りたいと思う。
ナンガサク(長崎)まで安全に送り届けて欲しい。
また、ガリバーはこうも言うんですね。
ラグナグ国王のおかげでこの国にやって来た。
商売で来たわけではないので、
十字架を踏む儀式は免除してほしい。
こやつはなぜ踏み絵を拒むのか、
本当にオランダ人なのか?
陛下は疑いますが、ラグナグ王の推薦状もあるし、まぁ良いか、とガリバーの願いを受け入れ、ナンガサクまで無事届けるよう命令をくだすのでした。
ナンガサキにも付き、そこから「アンポニア号」という船のオランダ人の水夫たちと知り合い、それに乗って帰れることに。
また天皇陛下が約束してくれたように、
踏み絵の儀式はガリバーだけが免除されて無事出航!
オランダを経由して無事イギリスの故郷ダウンズに着いたのでした。
今回の旅は5年と6か月!
ようやく妻子たちの元気な顔を見ることが出来たガリバーでした!
天空の国の意味は?
この旅でガリバーは空に浮く島ラピュタから
最後は日本を通りイギリスへと戻ります。
日本が出て来て、どんな描写があるかワクワクしますが、実は日本の描写はほとんどない!(笑)
- 空に浮く島ラピュタの科学:
ラピュタでは王や貴族は数学と音楽だけに関心がありその他には全く無関心。しかもその数学や音楽は全く人々の役に立ってない。権力者が科学を利用して人々を支配するさまを風刺しているようにも見えます。 - ラピュタの下にあるバルニバービ:
バルニバービでは、人々はラピュタの数学を学び、そのおかげで町も荒廃する一途。更に役に立たない研究に没頭しています。ここでは科学研究の方向性はそれでいいのか、とか、それによる社会への影響を風刺しているように見えそうです。 - グラブダブドリブの魔法使い:
グラブダブドリブでは、長である魔法使いに古代から現代にいたる様々な偉人を呼び起こしてもらい、実際の出来事と現代に伝わる違いを描いてます。事実と知れていることに、いかに誤解や偏見が含まれているのか、という警笛にも見えそうです。 - 不死の人々ストラルドブラグ:
ラクナグの国には不死の人たちがいて、ガリバーは最初こそ羨望のまなざしで見ますが、実態を知ると大きく失望します。長生きすることの意味、そして老いていくことの意味、そうならないようにと、人々への戒めを説いているようにも見えますね。 - オランダ人と日本:
踏み絵とオランダ人が描かれてますが、当時のオランダは貿易により隆盛を極めていた時期。オランダ人を分かりやすい例にとり更に踏み絵の例を出して、自国イギリスを含む当時のヨーロッパの表面的な宗教への信仰と実利を優先する態度を風刺しているとも見れそうです。
この天空の国ラピュタ編では、当時のヨーロッパの社会、科学、政治から、さらに人間の欲望などに対して幅広く風刺をしてるようです。
ガリバーは江戸で天皇陛下(エンペラー)に会うわけで、日本人がここを読むと「いや、将軍でしょ?」なんて思ったりしますが、ガリバー旅行記はそうしたところを気にしちゃダメそうです。^-^;)
当時、鎖国のために限られた情報しか入ってこない遠い異国である日本。
日本を「現実にある国かも知れないが、神秘の国、皇帝を頂点とした閉鎖的な国」として登場させ、そこからオランダ人を装い踏み絵を免除されイギリスに戻るガリバーを描くことで、こうした国を目指すのではないし、何か言ってることとやってることが違うのでは?というような、自己反省や社会批判を促した、とも言えそうです。
馬の国のあらすじ
無事日本からオランダを経由してイギリスに戻ったガリバー。
その5か月後に「アドベンチュア号」の船長としての依頼があり、喜んだガリバーはすぐ出発!
でも旅の途中で船員たちは熱病でバタバタ倒れ、途中の島で雇った者たちは実は海賊。
船はのっとられてしまい、
ガリバーはどこかも分からない島に一人取り残されてしまいます。
この馬の国編はこれまでとは違い、
物語性よりメッセージ性が非常に強く、
スウィフトは、ガリバー、フウイヌム(馬の種族)、ヤフー(人間)を通して人間の傲慢さや貪欲さ、愚かさなどに対し風刺を炸裂させます。
ヤフーとフウイヌムとの出会い
ここはどこだろう...
島に上陸し畑のような場所を歩くと、
驚くような醜い動物に出会います。
猿のような人間のような、顔や腹以外は毛で覆われ、尻尾もなく鋭い爪を持ち軽々と木にも登る。まるで人が醜い獣にでもなったような生き物です。
これが「ヤフー」(Yahoo)と呼ばれる生き物たち。
ヤフーたちはガリバーに気が付き、
唸り声をあげる40匹ものヤフーがとり囲むは、木の上から排泄物を落とすはでガリバー大ピンチ!
すると突然はヤフーたちが一斉に逃げていきます。
気が付くと馬が一匹やって来るんですね。
これが国の支配者、理性があり道徳的な馬の種族「フウイヌム」です。
馬はガリバーを見ると驚いた様子を見せ、
「ちょっと待て」とでも言うようにいななきます。
なんて賢そうな馬なんだ...
ちょっと話しかけてみよう。
私はイギリス人だ。
運悪くこの島に流れ着き困っている。
どこかの家か村に連れてってはもらえないか。
馬はじっと聞いていたかと思えば、
もう一匹来た馬となにやら言葉らしきものを話している様子。
「ヤフー」とか「フウイヌム」というのが聞こえてくるので、ガリバーが真似して言うと、「な、な、なんじゃこいつは!?」という感じで馬たちもビックリ!
馬が「ついてこい」という仕草をするので、
一緒についていくガリバーなのでした。
フウイヌムの村へ
ガリバーが行き着いたところはフウイヌム(馬)の村。
からぶき屋根の家が並び、
最初こそ「こんなにも頭の良い馬を飼っているとは、主は相当なものに違いない」と思うガリバーですが、この国では馬が支配者と分かり、今度はガリバーがビックリ!
部屋に入れば馬たちはおしりを床に付いて行儀よく座っているし、家の仕事もしているのです。
別の建物では、あの醜い「ヤフー」たちが首を縄でつながれ、木の根や生肉をしきりに食べてますが、主人である馬はヤフーを連れ出し、横にガリバーを並べて見比べます。
ふーむ。
どうもヤフーとは違うようだが...
ガリバーが言葉を覚えた、という話しを聞き、
これは不思議だと、主人の馬は勿論、子馬達や召使の馬、みんながガリバーに言葉を教えます。
ヤフーは汚らしく野蛮で狂暴、
でもガリバーは綺麗好きで礼儀正しく、明らかにヤフーとは異なるし(着ている服のせいで)肌も見えない。
言葉を覚えた後に「これは洋服というものだ。ヤフーと区別してもらうために秘密にしておいた」と説明しますが、服が皮膚なのかなんだか理解されず、さっぱり通じないのでした。
全く理解できない主人の馬
周りの馬から言葉も覚えたガリバーは、
主人の馬といろいろと話すことができるようになりました。
ある時、ここまでたどり着いた経緯を主人の馬に話します。
- 自分はイギリスという島で生まれた。
- 国は女王と呼ばれるものが統治している。
- 船で航海に出たが、仲間の多くが死に別の国から人を雇った。
- それらは実は海賊で、放り出されてこの島にたどり着いた。
でも主人の馬は、
船とは何だ?
ヤフーが作っただと?あり得ない!
など、全く理解が出来ません。
どうやれば他の国のものを雇えるのかも不思議がる主人の馬に、「貧困や犯罪などでその地を離れざるを得ない者たちだったから」など説明しても「犯罪ってなに?」と聞かれてしまいます。
そもそもこの馬の国には
「権力」や「戦争」、「法律」や「罰」といった言葉がないんですね。
それでも主人の馬は理解力があり思慮深く、
ついにはガリバーの話を理解するようになるのでした。
2年以上もかけて理解する
主人の馬は、更にガリバーがヨーロッパとよぶ地やガリバーの母国について知りたがりますが、この説明には実に2年以上もかかります。
- オレンジ公(ウィリアム3世:のちのイングランド王)の元で革命が起きた。
- イギリスとフランスは長期の戦争状態になった。
- この戦争はキリスト教世界の最大勢力を巻き込み今なお続いている。
- 戦争では100万のヤフー(人間)が殺され、多くの船が沈められた。
こうした説明に、そもそも国と国とが戦争をする理由は何か、主人の馬には理解できません。
理由などは数えきれないほどある。
領土を広げたい王の野心、コートの色についての意見の違い、血族の中の争いなどが発端になることだってある。
一生懸命説明するガリバーですが、
お前のように顔が平たければ噛み合うこともできないし、爪も小さいので実際には大したことはできない、戦争と言っても大したものではないのだろう、と言う主人の馬。
これには「何言ってんの」と更にガリバーは説明します。
ピストルや大砲、爆撃や海戦など、千人が乗る船が沈むこともあるし、そうした様子を見物人が大いに楽しむこともある、など説明したすると「少し黙りなさい」と主人の馬が言う。
この国のヤフーは嫌いだが、それは自然の一部でもある。
だが理性を持つものがこれほど酷いことをするとなると、その理性そのものが悪い腐敗をもたらすのではないか。
お前たちが持つものは理性ではなく、悪徳を増大させる何かだと思うのだ。
そう言う主人の馬は、
別の疑問についても聞きたがります。
ガリバーが途中の島で雇ったものの中には法律により破滅し国を離れたものもいるという。法律は人を保護するものというが、なぜそれが破滅の原因となるのか。
法律の施行者は巧みに言葉を操り、
白を黒、黒を白と証明する。
時には相手の弁護士を金で寝返らせる。
裁判官はそうした弁護士から選ばれ、
詐欺や偽証を支持するのだ。
こうして説明しても、
主人の馬はそもそも「お金」というものも分からない。(笑)
ガリバーは「お金があれば、高級な衣服も立派な家も得られれば、美しい女性も選べる。金持ちは貧しいものを働かせてお金を得るし、貧しいものの多くは僅かな賃金で働き悲惨な生活を強いられている」などを説明します。
その他にも、国家の首席大臣は前任者を裏切ったりなどで大臣になる、賄賂で自らの権力の座にとどめ、最後には恩赦と呼ばれる手段で後の追求から逃れるなど、政治の権力構造などの説明もします。
ガリバーは平和で美徳を備えた馬と生活をしている中で、人間やその社会に対して視野も広がりこうした説明ができたし、自分自身の名誉など大したものではなく守る価値もないと考えるようにもなるのでした。
馬の主からの衝撃の言葉
そしてある日、
主人の馬がガリバーにこう言うのです。
私はお前の言うことを、よくよく考えてみたのだ。
お前たちは、なぜか理性をもっているようだが、その理性は堕落を生み、自らの能力を放棄して欲望を増やすことばかりをしているように見える。
無駄な努力に一生を費やしているように見えるのだ。
お前はヤフーに見た目がよく似ているが、実は心の在り方も同じではないのか。ヤフーは他のどの動物よりもお互いを憎むが、お前の話すお前たちの争いも似たようなものだ。
お前とヤフーは本質的に同じなのだ。
この言葉にショックを受けたかどうかは書かれてないようですが、ガリバーはこの国に住む馬族「フウイヌム」について語ります。
彼らは非常に理性的で、友情と思いやりの心が美徳であり、誰でも温かく迎え、どこに行っても自分の家と同じように安心できる。
慎み深く、上品で、少しもわざとらしいこともなければ、大人も子供も規則をしっかり守り、子供たちに険しい山や道を走らせて鍛えもする。
文字というものは持たず、
知識は口伝えで親から子へと受け継がれ、詩を作ることがとても上手。
歳をとり死を迎える時も誰も悲しまず、
本人も死期を悟ると、ちょっと出かけるぐらいな感じで近所の人たちに挨拶をして出ていくだけ。
そんなフウイヌムたちの立派な人格に触れ過ごすガリバー。自分の家族や友人、同胞を振り返るとひどく恥ずかしくもなり、水に映る自分の姿に思わず目を背けたくなるほどにもなるのでした。
フウイヌムとの別れ
フウイヌムたちの生活にすっかり慣れたガリバーも、別れが訪れます。
フウイヌムは4年ごとに代表者が集まる会議があり、醜く狂暴なヤフーについて話し合われます。
ヤフーなどは山狩りをして
排除した方が良いのではないか。
これに主人の馬が反対します。
ヤフーは昔に海を越えやって来たもので、そのまま山の中へ逃げこみ、だんだん野蛮になってしまったのだろう。
その証拠に私は不思議なヤフーを飼っている。
こうしてガリバーの事が議題として取り上げられ「ヤフーの中に入れれば知恵がある分なにをしでかすかわからない」「泳いで国に帰らせることとする」と決まります。
すまない。
一生お前を置いてやりたかったが、
こんな結果になってしまった。
泳いで帰ると言っても無理だろう。
いつか話してくれた船というものを作ってみてはどうだろう。皆協力するよ。
あまりの悲しみに倒れてしまうガリバーですが、それでも2か月の猶予をもらい、カヌーのような小舟を作ります。
これでいよいよお別れか...
出ていきなくないよ~!
主の馬一家、近所の馬たちに見送られ、
あらたな船出をするガリバーでした。
恐怖し引きこもりに
フウイヌムたちの島を出発したガリバーは、
無人島へたどり着きます。
遠くに船影が見えますが、
すっかりフウイヌムの社会に慣れたガリバーは、人間を恐れて島の中へと逃げ込みます。
やがて水夫に見つけられポルトガル語で「お前は何者だ!」と問われると、
フウイヌム国から追い出されたヤフーだ。
ほっといてくれ!
まるで馬のようにいななくガリバーに一同は大笑い。
ガリバーは何度も逃げ出そうとしますが、
船長がとても親身になってくれ、
最後には逃げないと約束します。
その後、船はポルトガルのリスボンに着き、
そこからイギリスの故郷ダウンスに帰ります。
ガリバーが家に帰ると、死んだと思っていた夫の帰りに妻は大感激!抱きつきキスをしようとするとガリバーはヤフーの事を思い出し、1時間も気絶をしてしまうのです。
その後1年、
ガリバーは妻や子供達と一緒にいることが耐えられず、同じ部屋で食事もできなければ、彼らに触れることさえもできません。
ガリバーは若い馬を二頭飼い、
馬小屋で一緒にいると、魂が甦るのを感じるのでした。
馬の国の意味は?
この馬の国はガリバーが最後に訪れた国。
ここでは馬の種族フウイヌムとその対極であるヤフーを通し、人間が持つ野蛮性や愚かさをバンバン描いてますね。
- フウイヌムの国:
フウイヌムは理性があり道徳的な馬の種族。
フウイヌムは争いを好まず平和と調和の中で暮らし、その様子は人間社会にとって理想の姿を描いているように見えます。 - ガリバーの説明が分からないフウイヌム:
ガリバーがフウイヌムに人間社会の政治や法律、戦争や経済における理不尽さや矛盾を説明しますが、スウィフトはこれらを通して当時のヨーロッパ社会に見られる不条理や不公正を強く批判し、読者に自己反省を促しているように見えます。 - ヤフーと同じではないか:
ガリバーはいろいろなことをフウイヌムに説明しますが、最後には、本質的にはヤフーと変わらぬ、と指摘されてしまいます。
人間に似た生き物ヤフーは、人間社会の欠点や悪徳の象徴であり、理性を持つとされる人間がいかに自己中心的で破壊的な行動を取るか、その理性が時として悪徳を増長させる原因にもなることを風刺しているように見えます。 - 水に映る己の姿に目を背けるガリバー:
ガリバーは人間社会の文化や争い、法律やお金などについて説明しますが、これはそのまま当時のヨーロッパ社会の不条理や不公正がスウィフトからみてどう見えるのか、読者にもどう見えるのかと、自己反省を促しているように見えますね。
ガリバーは、フウイヌム(馬の種族)との生活、ヤフーのいる環境の中で、人間の高慢さや愚かさなどを見つめざるを得なくなり、帰国後は家族にさえ馴染めず、馬2頭と暮らすといった世捨て人のようになってしまいます。
小人の国から始まったガリバーの冒険旅行、
それらを通し自己を振り返り、人間とその社会を深く考え、最後は引きこもりとなってしまうガリバーなのでした。
参考)
ガリバー旅行記 GULLIVER’S TRAVELS(原民喜訳)
Gulliver’s Travels | Project Gutenberg
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