「長靴をはいた猫」は貧しい末っ子が1匹の猫の知恵と機転で王女と結婚して幸せになる物語。
グリム童話にも初期には掲載されましたが、
今では17世紀のペローが書いた物語が一般的に知られてます。
今回はまずペロー版のあらすじを簡単に見て、
更にグリム版、バジーレ版、そして大元の原作と言われるストラパローラ版まで内容と違いを詳しく見ていきましょう。
長靴をはいた猫:あらすじ – ペロー版(1697年)
ではまず、最も知られるペロー版のあらすじを見ていきましょう。
財産は猫だけ
あるところに貧しい粉ひき職人の父親と3人の息子がいました。
父親が病気で亡くなりますが、
財産と呼べるものは「粉ひき小屋」に「ロバ」と「猫」だけ。
長男は粉ひき小屋を、次男はロバをもらい、
末っ子には猫だけが残ります。
兄さんたちは粉ひき小屋やロバで一緒に仕事が出来る。
でも僕にはネコだけ。
これでは飢え死にしちゃうよ...
そう途方に暮れているところに猫がこう言うんですね。
ご主人様。
袋と長靴をくださいな。
私もそんな悪い取り分ではないことが分かりますよ
※)当時のヨーロッパ、特にフランスではパンが日常食の中心であり、小麦や他の穀物を粉に挽く製粉師の役割は非常に重要。父親が粉ひき職人という設定ですが、この粉ひき職人は地域社会の食糧供給において重要な役割を果たしていた代表的な職業になるようです。
猫からの贈り物
この猫は賢くいつも上手にネズミ捕りをする、何かやってくれるかも、と思い、末っ子は言われた通りに猫に袋と長靴を与えます。
猫は長靴をはき(長靴をはいた猫の誕生!)袋を首にかけ、いざ出発!とばかりに野原に行くとウサギを捕まえます。
その後すぐお城に行き、王様にこう言うんですね。
陛下!
これは私の主「カラバ侯爵」からの贈り物です。どうぞお納めを。
深々と丁寧で立派にお辞儀する猫と素敵な贈り物に王様も大喜び。
またある時はキジを捕まえて王様のところに届けます。
陛下!
これは私の主、カラバ侯爵からの贈り物です!
この猫の立派な様子と立ち振る舞い、そして素晴らしい贈り物に「カラバ侯爵というのは大した人物に違いない」と王様は猫に褒美を渡すのでした。
※)当時のヨーロッパでは狩猟は貴族や王族の娯楽として非常に人気があり、ウサギ、キジ、鹿などの獲物は狩猟の対象として価値があったようです。これらを捕獲することは技術と勇気の証とされ、ウサギを王様に献上することは、献上する者の「他の人に分け与える」といった寛大さや狩猟技術を示すことにもなり、だから王様は猫もその主も気に入った、と解釈できますね。
王女様が一目惚れ?!
猫がそんなことを2,3か月もしていたある時、
王様と王女が川沿いを散歩することを聞きつけます。
来た来た来た来た!
これは大チャンス!
猫は大急ぎで主の元に行ったかと思えば、こう告げます。
ご主人様!
今日は川で水浴びしてください。
なんでって?
気にしない、気にしない。
言われた通りにしてみてくださいな。
末っ子は不思議に思いましたが、
まぁそんなに言うならと、服を脱ぎ川に入って水浴びを始めます。
そうこうしている間に、王様の馬車が通りかかりますが、しめた!とばかりに猫はこう叫びます。
大変だ!大変だ!
カラバ侯爵がおぼれてる!
誰か助けて!誰かー!
何の騒ぎだと王様が馬車から外を見ると、
いつも贈り物を届けてくれる猫が必死に助けを求めてるではないですか。
これは一大事!
王様はすぐ家来に命じて川で水浴びしている男を助けます。
猫は王様の馬車の元に駆け寄りこういうのです。
これは陛下ではないですか!
助かりました!
実は私の主が水浴びしているところ、盗賊が来て服を盗んでいったんです。
あぁ、どうしたらいいのでしょう。
そう言いつつ服を石の下に隠す猫(笑)
王様は、助けた男のためにすぐ家来に最高の服を持ってくるよう命じるのです。
あなたがカラバ侯爵か。
なんと立派な青年なのだろう。
実は末っ子、体格も良くハンサムでもあったんですね。
王様が持ってこさせた服がまたよく似合い、
カラバ伯爵は暖かく馬車に迎えられますが、そのりりしい姿に王女が一目惚れ!
賢い猫とネズミの魔王
そして猫は王様たちの馬車の先に進み、
道々の農夫たちにこう告げます。
おい、お前たち!
王様がここを通ったら「カラバ侯爵の土地」だと言え。
さもないとお前たちをみじん切りにしてやるぞ!
おお怖い。
これに恐れをなした農夫たち、
通りかかる王様が誰の領地かと尋ねると、
皆口々に「カラバ侯爵のものです!」「カラバ侯爵のものです!」と答えます。
(農夫たちもみな必死(笑))
素晴らしい、カラバ侯爵はなんて広大な領地をもっているものだと王様は驚き、改めてカラバ伯爵というのは大したものだと感心します。
そして一向が向かう先には、
このあたり一帯を治める魔王の住む豪華なお城があります。
猫は一足先にそのお城に行き、魔王に会いこう話すんですね。
これはこれは魔王様。
あなた様はどんなものにも変身できる素晴らしい力があると聞き及んでおります。
皆、それは凄いと感心しておりますぞ。
ハッハッハ。
可愛いやつよ。
わしも有名になったものだ。
そのお力、是非一度拝見したいと思っておりました。
たとえばライオンに変身できるものでしょうか
そんなものはお安い御用とばかりに魔王が得意げにライオンに変身すると、その姿に恐れおののいた猫は隅の方に逃げ込みます。
いや、いや、いや、いや、
これは驚きました。
でもさすがに小さなネズミには変身できないでしょう。
あなた様がそんな小さくなるなんて不可能ですからね。
何を言う、お安い御用さ、とまたも魔王は得意げに小さなネズミに変身しますが、ここぞとばかりに猫をはネズミを捕まえてペロンと食べちゃいました。
僕が王女のお婿に?!
そうこうしている内に猫の主を乗せた王様の馬車がお城を通りかかります。
王様が、これは素晴らしい城だ、中もどんなにか素晴らしいだろう、と思っているところに猫がこう言います。
陛下!ようこそ!
こちらはわが主、カラバ侯爵のお城です。
どうぞ中でおくつろぎください。
なんと!ということで王様、王女様、そして家来たちは中に入りしばしの休憩をされるわけですが、王様も王女様もカラバ侯爵が持つ広大な領地、素敵なお城に驚きを隠せません。
王女様はカラバ侯爵のことが大好きになりました。
カラバ侯爵。
どうだろう、わしの娘の婿になってはくれまいか。
なななな、なんですって?
僕が王女様の婿にですって?!
カラバ侯爵はあまりの急な展開にしどろもどろになりますが、王女様もすっかりカラバ侯爵に夢中です。
二人はその日のうちに結婚しました。
猫も貴族としてとりたてられ、
ネズミ捕りもたまに遊びで追いかけるだけになりましたとさ。
現代に知られる原作となるもの
この物語は、フランスの詩人シャルル・ペローが1697年に書いた「昔話のお母さん」(Histoires ou contes du temps passé)に収められているお話し。
いくつかある「長靴をはいた猫」のバージョンとしては、現代で最もよく知られるものになりますね。
このペロー版の原題はフランス語で
「Le Maître chat ou le Chat botté」。
直訳すると「主人である猫、または長靴をはいた猫」となるようです。
「主人である猫」(Le Maître chat)は、猫が主人ということで、ただのペットではなく中心的な役割を果たすキャラクターであることを示し、また「長靴をはいた猫」(le Chat botté)は、猫が長靴をはいているといった、通常あり得ない特徴を示すことで、猫の賢さや狡猾さをそこに象徴してるようですね。
これが英語に訳されるとタイトルも「Puss in Boots」(長靴をはいた猫)とだけになるようですが、「Puss」は猫に対する親しみを込めた呼び名。フランス語の原題に同じく、猫がただの動物ではなく親しみがあり一つの個性を持った重要なキャラクターであることを示すタイトルとなってるようです。
もっとも最近で見ると、
2023年に「Puss in Boots」のタイトルでアニメ映画になってます。
このよく知られるペロー版はかなり昔の1697年のもの。
これ以降の1812年にはグリム童話でもこの物語が紹介されますが、実は最初の版だけで、第二版以降は削除されます。
またこのペロー版の前には、その50年ほど前バレージという人が1634年に書いたバージョンもがあり、それらの原作とも呼ばれるものが1550年頃のイタリアの作家ストラパローラの「幸運なコンスタンティーノ」という作品。
ペロー版の後のグリム童話、バジーレ版、それらの大元になるストラパローラ版とありますが、それぞれ今知られるペロー版との違いも見ていきましょう。
長靴をはいた猫:グリム童話(1812年)
ペロー版から約100年後に出されたグリム童話の「長靴をはいた猫」。
タイトルはドイツ語で「Der gestiefelte Kater」(長靴をはいた猫)と同じになりますね。
ペロー版との違い
上で見たペロー版との主な違いは以下になるようです。
- 三男に猫だけが遺されるのは同じだが、三男は猫が話をするのに驚く
- 猫が求めたものは靴のみで、服も着る
- 王様はヤマウズラが大好物。
猫はそれを知っていて王様にはウサギではなくヤマウズラをプレゼント - 自分の主(三男)を「伯爵」と伝える。侯爵ではないし「カバラ」など具体的名前も出てこない
- 自分の主が水浴びするのは川でなく湖。
- 王様たちの馬車は、草原、穀物畑、森を通る。
- 人々はそれぞれ「伯爵のものだと言え」と猫に言われるが、言うとおりにしたのは、皆殺しにされるぞという脅し文句と、猫が二本足で歩き恐ろしかったため。
- お城は魔王ではなく偉大なる魔法使いのもの
- 魔法使いは、最初は象に変身し、その後ライオン、ネズミに化ける
- 話しの結末は、三男は王となり、猫は首相となる。
- ネズミ捕りは暇つぶしの遊びだけにした、という締めくくりは特にない
グリム童話では1812年の第1版にのみ含まれ、その後の現代版では付録として含まれるようですが、なぜそうなったのかは後にして、このペロー版との違いを中心にあらすじを見てみましょう。
グリム版のあらすじ
オス猫とヤマウズラが好きな王様
粉ひき屋の父親と3人の息子がいた
父親が亡くなると、長男は粉ひき小屋、次男はロバ、三男はオス猫を手に入れた。
このままでは飢え死にしてしまう、という三男。でも猫が主人を助けることが出来ると話しをするのにびっくりするが、猫は三男に長靴を頼み、服を着て袋を取り、穀物を袋の中につめて人間のように二本足で外に出ていく。
その国を治めていた王様はヤマウズラ(キジ科の鳥)を食べるのが大好き。でもヤマウズラは警戒心が強くてなかなか猟師に捕まらない。
それを知っていた猫は、袋に詰めた穀物を餌にヤマウズラを沢山捕まえ、王様のお城を訪れる。
「止まれ!」と警備員に呼び止められれるが、別の警備員は「王様は退屈しておられる。その猫が楽しませてくれるさ」ということで中に入ることを許可される。
王様に、自分の主は伯爵であり(名前の記載はない)、ヤマウズラを王様に持っていくように言われたので持ってきたと告げる。
ヤマウズラが大好きな王様はこれには喜び、猫の持つ袋に沢山の金を詰めさせ大いに感謝した。
猫が家に戻ると主である三男に「王様に主を伯爵と紹介したこと」「お金はその内なくなるから明日も靴を履いて狩りに行くこと」を伝えた。
それから毎日のように王様に獲物を届け、褒美として金を受け取り、猫は王様のお気に入りとなって城への出入りが自由に許されるようにもなった。
川でなく湖へ水浴びに
ある時猫がお城のキッチンで休んでいると馬車の担当から「王様と王女様が湖に行く」ことを聞く。
猫は主人の元に帰り「もし伯爵となって豊かになりたいなら一緒に湖にいって水浴びしてほしい」とつげる。
何を言ってるか分からないが、三男は湖に行き水浴びをし、そのすきに猫は三男の服を隠してしまう。
その内王様たちが来たので、
「主人が水浴びしていたら泥棒に服が盗まれてしまった!水から出るに出られず、このままだと風邪をひいて死んでしまう!」
と言うと、王様は急いで家来に服を持ってこさせた。
王様は湖の男が猫から聞いていた主の伯爵であると思い、馬車に招き入れた。伯爵は若々しく美しい姿をしていたので王女も気に入ったのだ。
草原・畑・森と二本足で歩く猫の恐怖
猫はすかさず馬車の先に行き、大きな草原で欲し草を作っていたいた100人以上に誰の草原か尋ねると「偉大な魔法使いのもの」という。
「この草原は誰のものかと聞かれたら伯爵のものと答えなさい。そうしないと皆殺しにされるぞ」
更に先に進み、見渡す限りの穀物畑で200人以上の人がいて先ほどと同じように告げる。
更に先には壮大な森があり、300人以上の人が木材を作っていたので、やはり同じように伝える。
人々靴を履きは人のように歩いている猫を見て不思議に思い、また恐れ、猫の言う通りにした。
それぞれの地を通り過ぎる王様は人々が「伯爵のものだ」というので、伯爵は何て素晴らしい土地や森をもっているのだろうと感心する。
魔法使いは象、ライオン、ネズミへと変身
先に進んだ猫は魔法使いの城に行き、大胆に中に入っていくと、魔法使いは猫を見下げた感じで「何が望みか」と尋ねる。
「あなたがどんな動物にも変身できると聞いた。犬やキツネなら分かるがさすがに象は無理でしょう。自分の目で確かめたくて来たのです」
猫の言葉を聞くと、魔法使いは「たやすいことだ」と象に変身。その次にはライオンへと変身する
猫は驚いて「これは凄い!信じられない!あなたは世界中のどの魔法使いよりも凄いかもしれないが、さすがにネズミのような小さな動物にはなれないでしょう」という。
誉め言葉も混じる猫の言葉に喜んだ魔法使いは機嫌も良くなり「可愛いネコちゃんや。そんなの簡単さ」というとネズミに変身し、その途端、猫がネズミをとらえて食べてしまいます。
王様たちが城にやってくると「ここは私の主、伯爵さまのお城です」と猫は紹介し、王様も自分の城よりも大きく美しいその城に驚きつつも中に入る。
伯爵も王女と階段を上り、金と宝石で輝く大広間に入っていき、その後王女と婚約した。
王様が亡くなると伯爵が王となり、長靴をはいた猫は首相になったとさ。
原文はこちら(ドイツ語版)
長靴をはいた猫 – ブラザーズグリム (grimmstories.com)
なぜ第二版以降では削除されたのか
ペロー版と比べると、細かい描写があったり設定が少し異なるようですが、物語全体の流れ、主要な出来事はペロー版と非常によく似てますね。
グリム兄弟はこの話しをペロー版を元にしたわけではなく、「ジャネット・ハッセンプフルグ」(Jeanette Hassenpflug)という、グリム兄弟に民話などをよく話してくれた人から聞いたようです。
ただグリム兄弟は主にドイツやその周辺地域に伝わる民話をまとめることに主眼をおいていたことと、ペロー版との類似性、また、ペローはフランス人であり、当時のドイツとフランスの対立関係などから、グリム童話の初版にのせたものの2版から削除としたようです。
「赤ずきんちゃん」も、同じくジャネットから聞いたお話で、ペロー版にも赤ずきんの物語がありますが「長靴をはいた猫」のように削除されてません。
赤ずきんちゃんはヨーロッパに広く伝わる伝承であり、勿論ドイツにもその物語のバリエーションが存在し伝わるお話でそれを再編集したもの。
結末がペロー版とは大きく異なり、
つまりグリム童話はあくまで赤ずきんちゃんはドイツに伝わる物語の1つとしてとらえ、またペロー版とは異なるメッセージを伝えたかった、という理由から残して行ったのでしょう。
長靴をはいた猫:バジーレ版(1634年)
この「長靴をはいた猫」は最初に見た1697年のペロー版以前では、その約50年前の1634年に出版されたジャンバティスタ・バジーレによる『ペンタメローネ』に収められた「Cagliuso」(カリウソ)というタイトルのバージョンもあります。
一説によるとこのバジーレ版はフランス語に訳されるのが遅く、フランス人のペローは実はこのバジーレ版は知らなかったのでは?とも言われてたりします。
実際ペロー版と違う点だけをピックアップしようと思いましたが、結構違うのであらすじをご紹介。
バジーレ版のあらすじ
カリウソと猫
ナポリの町に父親と二人の息子の貧しい3人家族があった。
父親が死ぬときに長男オラツィエロには「ふるい」を、次男カリウソには「猫」を遺(のこ)します。
※)「ふるい」は穀物をふるいにかける道具。農業では重要で、つまりは父親は長男には生活の術を残した、ということ
「一銭もなく一人だけでも大変なのに猫まで。これなら何も残してくれないほうが良かったよ...」
カリウソの不満を聞くと猫が言う。
「そんな不平を言うのはまだ早い!私にはあなたをお金持ちにできるんだ!」
猫と王様
猫はカリウソのために、毎朝魚取りに出かけ、獲物が取れると王様の元へ行きこう言うのです。
「あなたの忠実な臣下のわが主「カリウソ様」がこの獲物であなたへの敬意を表したいと申しております」
それを聞いた王様は大層喜び、それから猫は獲物を捕ると王様へ届け続けるという日々を過ごします。
王様も徐々に猫の主であるカリウソに恩義を感じるようになり、一度会いたいと猫に伝えます。
「私の主の願いはあなたへ忠誠を誓い仕えることです。
必ずあなたに敬意を表しにやって来るでしょう」
メイドが逃げた!
ところが王様と合う約束の日が来ると猫はこう言います。
「陛下、誠に申し訳ございません。わが主はここに来ることがかないません。メイドたちが服とともに逃げ去り、主の服がないのです。」
そう聞くと王様はすぐ家来に服を用意させ、カリウソに送るよう命じ、そのおかげでカリウソは王様の元を訪れます。
豪華な宴会とカリウソの素朴さ
カリウソとの対面を喜んだ王様は、カリウソを隣に座らせ豪華な宴会を開きます。
でも食事中、カリウソは時折猫にこう言うんですね。
「僕の古い服も大事にしてね。どこにあるか分からなくならないようにしてね」
カリウソは家で自分が着ていた服が心配になりこう言いますが、
「いいからだまって!他の人に聞かれると素性がバレちゃうよ」
その会話に気が付いた王様、何か必要なのかな?と尋ねますが
猫は話をはぐらかすために「レモンが食べたい!」など答えます。
でもカリウソがまた古い服の話を始め、猫は次はどんな風にごまかすか困ります。(笑)
カリウソの財産はどれぐらい?
豪華な宴会も終わり、カリウソはしばらく休憩していると、猫は王様に、いかに主が素晴らしいく、広大な土地を持ち、王の親戚になるにふさわしい人物であることを話します。
王様もこう聞くとカリウソがどれほどの財産を持っているのか気になり、高官たちに確認してくるよう送り出す。
猫は高官たちを国境近くまで案内し、途中で羊や牛の群れに遭遇すると、羊飼いや番人に「盗賊が来てるぞ!財産や身を守りたかったら「カリウソさまのものだ」と言え!」と警告します。
これにより、国王の高官たちはどこに行って調べても、全ての人が「これはカリウソ様のものである」と言う証言を聞くことになりました。
カリウソが結婚!
猫のこの見事で巧妙な策により、カリウソは非常に豊かで影響力のある人物であるとみなされ、高官たちのその報告を国王は聞くことになります。
これを聞いた王様は娘とカリウソとの結婚を決断。
猫に結婚をとりつけたら多額の報酬をやると約束し、猫も急いで結婚を締結。結婚式が盛大に行われ、大騒ぎは1か月も続きました。
人はかくあるものなのか
結婚後、カリウソは自分の土地を訪れたくなり、花嫁を連れて戻りますが、猫の指導でさまざまな土地や財産を購入し、ついに男爵の地位までになりました。
カリウソは猫に大感謝。
猫がたとえ死んでも金の箱に収めて自分の部屋に永遠においておくという名誉ある約束もします。
猫はカリウソの言葉が本当なのか、その数日後、庭に横たわり死んだふりをしてみたところ、それを見つけた妻に対し、「足をつかんで放り出しておけ」という。
猫は死んだふりをやめ、カリウソにこう告げます。
「これがあなたの感謝の印なのか。
あなたがここまでになったのは誰のおかげだ。この恩知らず!」
そう言うと猫は飛び出し、
カリウソがどれだけ懇願しても、もう猫は戻ることはありませんでした。
猫は振り返りながらこう言うのです。
「神よ、私たちを救ってください、金持ちになった時の貧しいものから、そして彼が金持ちになった時の乞食から。」
原文はこちら(イタリア語版)
Cagliuso – itineraridafiaba.it)
最後の猫のセリフ、
「神よ、私たちを救ってください、金持ちになった時の貧しいものから、そして彼が金持ちになった時の乞食から。」
が、分かりづらいですが、つまり、
- 人は金持ちになると、貧しい時の謙虚さや感謝の心を失う
- 人は金持ちになると、自分がそうだったであろう乞食の者に対して冷たく無関心になる
人とはそういうものであり、そうしたものを神に救ってくれ、とお願いしているセリフ。
でも物語では、猫が最後に絶望しどこかに行ってしまう時に言うセリフということから、人とはそういうものだ、それはもうどうしようもない、神でも救えないだろう、という皮肉的なものにもなってるようですね。
この物語の教訓
いま最も知れ渡るペロー版、そして第1版のあと削除されてしまったグリム版も、物語は楽しく流れ最後はハッピーエンド。
たとえ出発点が貧しくても、努力や工夫で幸せにつながる道はある、ということが教訓として挙げられますが、このバジーレ版では結末が強烈で、非常に教訓のメッセージが強い物語になってます。
- 人はたとえ貧乏でも希望がなくても、努力や工夫でかならずなんとかなるものだ
- でも一定の富を得ると、かつての自分を忘れ、本当に大切なもの(猫)を失うことにもなる
- それは人のさがとして避けては通れない(神さえも救えない)ものであり、そうならないよう気をつけるのだぞ
このバジーレ版は、神さえも救えない人の特性を厳しく表現している物語とも言えそうですが、ペロー版は、最後の教訓的な個所はなく、猫の知恵や勇気を前面に出し(その重要性を強調し)、楽しく痛快な物語にした、だからより世の中に広まり今に受け継がれている、ということも言えるのかも。
参考)
Cagliuso(イタリア語) – itineraridafiaba.it)
長靴をはいた猫:原作(1550年頃)
「長靴をはいた猫」は最初に見たペロー版(1697年)は実はバジーレ版(1634年)を元にしてない、という話しがあり、では何か原作があるのか、というと、実はこれがあるんですね。
バジーレ版にも大きく影響していると思いますが、それがイタリアの作家ストラパローラ(Straparola)による1550年頃の童話集「愉しき夜毎」(The Pleasant Nights)に収録されているもの。
参考)ストラパローラの愉しき夜毎:
The Facetious Nights of Straparola
74の物語が13夜に分かって語られるもので、第11夜の1つ目の作品が「長靴をはいた猫」に相当するようです。
タイトルは「コスタンティーノ・フォルトゥナート」(Costantino Fortunato)で、イタリア語では「幸運なコスタンティーノ」の意味になるようですね。
ではそのあらすじを見てみましょう。
ストラパローラ版のあらすじ
コンスタンティーノと妖精の猫
ボヘミアに母親と息子3人の貧しい家庭があった。
母親が死ぬと長男には「パン生地を入れる型」、次男には「生地を伸ばす木の板」、三男のコンスタンティーノには「猫」を残した。
長男と次男は桶とへらを使い生計を立てたが、コンスタンティーノを助けることはなかった。
猫は実は妖精の仮の姿。
二人の兄に怒りを覚えコンスタンティーノに同情し、野原でうさぎを捕まえては王へ献上する。
「これは私の主、コンスタンティーノからです」
王は喜び、主について尋ねると、猫は「美徳あふれる若い紳士」と答え、王は猫に最高の食事を与えます。猫は誰も見てない隙に、持ってきた袋に食べ物を詰め込んで持ち帰り、コンスタンティーノを養うのでした。
面倒になる猫
コンスタンティーノは見た目は良かったが、多くの苦労のため肌が荒れ斑点もあった。
そこで猫はコンスタンティーノを川へ連れていき、顔を洗わせ頭から足まで丁寧に舐めて綺麗にすると、数日で見違えるほど美しい青年となった。
猫は王へ贈り物を届け続けるが、だんだんと面倒になり(笑)ある日コンスタンティーノにこう言います。
「ご主人様。私の言うとおりにすればすぐ裕福になるよ!」
コンスタンティーノは猫の言うまま王宮の近くの川へ行き、衣服を脱いで川に飛び込むと、猫が叫ぶ!
「誰か助けてくれ!コンスタンティーノ様が溺れる!」
これを王が聞きつけ、猫から聞いているコンスタンティーノが危ない!と、家臣をすぐ送りコンスタンティーノを助けるのでした。
猫を信じる王様
コンスタンティーノは衣服を着せられ王と会うことになりますが、何を言ったらいいか分からない。
そこで猫が話します。
「王よ、私の主人は陛下への贈り物として多くの宝石を持ってくる途中強盗に襲われ、川に投げ込まれたのです。お助けしてくれなかったら間違いなく溺れていたでしょう。」
コンスタンティーノはハンサムで、猫が言うように裕福であると考えた王は、一人娘である王女エリゼット(Elisette)を妻として嫁がせることに決めます。(決断が早い!)
金や宝石、豪華な衣服を持たせ、コンスタンティーノとその妻は、馬に乗る従者に付き添われてコンスタンティーノの家へと向かうことになりますが、どこに行ったらいいか分からないコンスタンティーノ。(笑)
「ご主人様。私に全て任せてくれれば大丈夫!」
馬の音で脅しをかける
猫が先頭に立ち道案内をする一方、
一足先に行き、出会う騎士や羊飼いたちにこう言うのです。
「もうすぐ武装した大群が来るぞ!あの馬の音が聞こえないか!?主が誰かと尋ねられたらコンスタンティーノ様であると答えるのだ。そうすれば必ず助かる!」
そしてコンスタンティーノの行列は出会った人たち全員から「ここはコンスタンティーノ様のもの」という声を聞き、王女や従者たちはコンスタンティーノが本当に偉大な方と確信します。
城の主は不慮の事故?
そして先頭を先に行く猫は、ある城に行き着きますが、城の主は妻へ会いにお出かけ中。
そこで城の人々に言う。
「あの馬の音が聞こえないか!もうすぐ恐ろしい軍勢が攻めて来る。この城がコンスタンティーノ様のものであると言えば助かるぞ!」
コンスタンティーノの一行がその城に到着すると、城の者たちは皆「コンスタンティーノ様のものである」と言い、一行はその城に宿泊するのでした。
城の主は妻へ会いに行く途中、不慮の事故で急死してしまい、コンスタンティーノが王女の夫ということから城の新しい主として迎え入れる。
妻の父であるボヘミアの王が死ぬと、一人娘の王女の夫ということで、コンスタンティーノが新たな王となり、妻とともに長く幸せに暮らしましたとさ。
見て分かるように、バジーレ版やペロー版と登場人物や物語の基本的な要素は同じです。
違いを簡単にまとめると以下になりますね。
- 物語は、父親と3人の息子ではなく、母親と3人の息子から始まる
- 三男の名前はコンスタンティーノ。(英語ではコンスタンチン)。
- 王女の名前はエリゼット。
- 猫は実は妖精が化けているもの
- 猫は特に長靴をはいてない。また猫は王様からの褒美ではなく、食べ物を密かに持ち帰り三男を養う(笑)
- 三男は苦労で肌荒れしてたが、猫の助けでなおり、美青年に大変身。
- 三男が水につかるのはペロー版に同じく川。
- 王は三男の財産などを実際には確認せず、猫の言う言葉のみでいきなり王女と結婚させる
- 猫が土地の人々に「コンスタンティン様のものと言え」というのは結婚後の話しで、三男が城を得るのも結婚後。
- 城の元々の主はその土地の領主。領主は妻に会うために丁度出かけていて、途中何かの理由で急に亡くなる
- 三男は最後は王になるが、猫がどうなったかまでは書かれてない
原作とその後の物語の考察
この原作を見ると、猫が王様にコンスタンティン(三男)を素晴らしい紳士と紹介してはいても、王様がいきなり王女と結婚させるのは、少し説得力に欠ける感じもしそうです。
ということで、後のバレージ版やペロー版の時代に至る過程か、またはバレージやペローが物語の再構築をする過程で話しの順番が変わったと想像できそうですね。
つまり、結婚後に三男が裕福であると見せかけるのではなく、王様が王女との結婚を認めるだけの根拠となるよう、結婚前に三男がそれらを持っている見せかける順に変えた。
また、三男が城を得るパターンも、領主が丁度出かけていた、という非常に偶然性の高い設定ではなく、常にそこには城の主がいることにして(偶然性を排除して)、また物語性を高めるために妖精の変化した猫からヒントを得て、魔王や魔法使いを登場させ、そこに猫が機転を利かせるアイディアが盛り込まれた話にした。
猫が長靴を欲しがる要素はこの中には出てこず、後のバレージ版にも出てこず、更に後のペロー版で初めて登場するようです。
この物語がよく知られるようになった要素としては、やはり「猫が長靴をはいている」という点があると思いますが、そうして所を考えるとペロー版は秀逸な物語に仕上げた、ということも言えそうですね。
まとめ
- 「長靴をはいた猫」はペロー版が有名。
- グリム童話では、ペロー版との類似性やドイツとフランスの関係などから第1版のみの掲載となった
- ペロー版より以前のバジーレ版では、長靴は登場しない。また物語の結末では、主人の裏切りで猫が逃げ去るといった非常に教訓的な内容が含まれる。
- ストラパローラ版は起源ともなるが後のバジーレ版、ペロー版、グリム版とは異なり「猫は妖精の化身」。また三男コンスタンティーノが多くの領土を持つと見せかけるのは王女との結婚後のこと。
ペロー版、グリム童話版、バジーレ版、ストラパローラ版と見ましたが、この物語を世界中で有名にしたのはペロー版の「猫に長靴をはかせた」ところになりそうです。
どの版も話の要点や流れは大体同じですが、猫に長靴をはかせることで視覚イメージとしても非常に特徴的・印象的になり、後にミュージカルや映画、アニメとなって、より世間に知れ渡ることになったのでしょう。
私などは昔の東宝映画の「長靴をはいた猫」(猫の名前がペロで3匹の殺し屋猫たちが出て来るやつね)が大好きだったりしますが、これもペロー版を原作としていると紹介されたりしてますね。
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