猿蟹合戦は、猿にやられたカニが栗や蜂、臼、コンブ/牛のフンで猿に敵討ちをする物語。
色々な地方で伝えられ、
出て来る登場人物も結構違ったりしますね。
ここでは猿蟹合戦のあらすじを短く見て、
登場人物はどうなっているか、原作や牛のフンはどの時代から登場するかなど詳しく見て行きましょう。
さるかに合戦のあらすじ
まずはあらすじです。
こでは、牛のフンの代わりにコンブが登場しています。
柿の種とおむすび
昔々あるところに、猿とカニがいました。
猿は「柿の種」を、カニは「おむすび」を拾いますが、猿はおむすびが美味しそうで欲しくてたまりません。
カニさんや、
このカキの種とおむすび、交換しようよ!
え~?!
今から食べようと思ってたのに。
なにね、
おむすびは食べたら終わりだろ?
でも柿の種は、芽が出て育ては、沢山柿の実をつけるんだ。
柿の種の方が断然お得だと思うんだけどな。
なるほど、そうかもしれない、と、
カニはおむすびと柿の種の猿と交換します。
やったぜ!とばかりに猿はおむすびを食べて大満足。
柿の実が沢山!
カニは家に帰ると、
さっそく庭に柿の種を植えます。
早く芽が出ろ、チョン切るぞ!
すると早速柿の芽が出てきます。
早く木になれ、ちょん切るぞ!
柿の芽は木に成長します!
早く実がなれ、ちょん切るぞ!
あっという間にたくさんの実をつける柿の木。
やった!
やっぱり柿の実に交換して正解だった。
早く食べてみよう!
でもカニさんは木に登れない!
猿と哀れなカニ
困ったな~と思っていると、
そこに猿がやってきます。
カニさん、カニさん、
柿の実をくれたら僕が取って来てあげるよ
これは助かる、とカニは猿に頼みますが、
猿はスルスルと柿の木に登ると、熟した柿をどんどん食べだします。
おーい、猿さん。
僕にも1つおくれよ~
うるさいカニだな、と、
猿はまだ青い柿を下に投げ捨てます。
おいおい猿さん、
これは苦くて食べられないよ!
もう、うるさいな、と、猿は更に青い柿を投げ捨てます。
ペッペッ。こりゃ苦い。
これじゃ食べられないよ!
うるさい!これでもくらえ!とばかりに、
なんと猿は硬く青い実をカニに投げつけます。
痛い!
硬い実はカニの甲羅にあたり、
かわいそうに甲羅が砕けてカニは死んでしまいました。
猿はお腹一杯になると、山の家に帰っていくのです。
やっつけてやる!
そのうち、子ガニが家に帰ってきます。
お、お父さん。どうしたの?
そこには無残に甲羅を割られて
息絶えた父親ガニの姿がありました。
見れば柿の実はすっかりなくなり、
血の付いた青い実がころがってます。
猿のやつだ!
柿の実を食べてお父さんに青い実を投げつけたんだ!
なんてことだ...
子ガニは大声で泣きだします。
そこに友達の栗が転がってきます。
おいおい、どうした。そんなに泣いて。
子ガニが事情を話すと栗はこう言うんですね。
なんて酷いことを。
わしが敵をとってやる!
それでも泣き止まない子ガニ。
その声を聞き、蜂、昆布、臼(うす)もやってきて、みんなが かたき討ちを手伝ってくれると言うんですね。
やっと泣き止んだ子ガニ。
栗や蜂、昆布、臼との強力なチームの完成だ!
いざ、猿の家に突撃です。
驚く猿と結末
猿の家につくと、どうやら猿はお出かけ中。
「よし、みんな。隠れるぞ!」
栗は囲炉裏(いろり)の中に、
蜂は水がめの陰に、
昆布は床の上に、
臼は屋根裏に、それぞれ隠れます。
夕方になると猿も帰って来て「おー寒い」とばかりに囲炉裏の火にあたります。
が、そこで日の中から栗がはじけて猿に体当たり!
アチチチチ!
猿は急いで水がめのところに行きますが、そこで蜂が、これでもか、と猿を刺しまくる。
イテテテテ!
これはたまらないと逃げだす猿。
でも床の昆布に滑って転びます。
アイタタタタ!
そこへ屋根裏から臼(うす)がドシン!と猿の上に落ちるのです。
ウガー!もうダメだ...
子ガニはみんなの力を借りて、みごと父親の仇をとったのでした。
牛のフンと登場人物
この猿蟹合戦は、
昔から色々な地方で伝わる民話です。
上のあらすじでは、猿とカニ以外の登場人物は「栗、蜂、昆布、臼(うす)」ですが、これは地方によっても変わります。
昆布の代わりに「牛の糞(ふん)」が登場するバージョンも多く、地方によって登場人物がどう伝わっているか、ネットで分かる限り調べてみると以下のようになってます。
伝わる地域 | 登場人物 |
北海道:蛙とクマネズミ | (割愛:シベリアに伝わる昔話) |
秋田県:猿蟹合戦 | 橡の実(とちのみ)、蜂、牛の糞、臼 ※)牛の糞が猿を滑らせる |
新潟県:さるかに合戦 | 栗、蜂、牛の糞、臼 |
石川県:カニと猿 | どんぐり、蜂、牛の糞、針、ムカデ、マムシ、漬物石 ※)きび団子で仲間を増やす ※)針は猿の足の裏を刺し、ムカデは手をかみ、マムシはチンチンにかみつく(笑) |
茨木県:さるかに合戦 | 蜂、腐った柿、臼(うす) ※)腐った柿で猿はすべる |
島根県:猿蟹合戦 | 卵、蜂、昆布、臼 ※)卵が囲炉裏に入ってはじける |
こうしてみると「蜂」、「臼」(うす)はレギュラーメンバー。
そしてレギュラー同等として木の実(栗やどんぐりなど)。
また石川県の「カニと猿」では、針やムカデ、マムシなど仲間も多く、しかも桃太郎のように「きび団子」で仲間を増やす!となってますね(笑)
参考)【桃太郎】あらすじを簡単に!作者や原作,家来の秘密について
でも実はこの「きび団子で仲間を増やす」や「仲間がとても多い」という物語の方が、古くから伝わる内容に近いようです。
つまり今に伝わる猿蟹合戦の民話は、きび団子や仲間が多いと古い形を残していて、そうでない今広く伝わる猿蟹合戦は、より新しい話し、となるようです。
そうなのか...ということで、
この猿蟹合戦、昔はどんな話なのか、原作を少したどってみました。
猿蟹合戦の原作について
東南アジアやヨーロッパ
この猿蟹合戦は、大きく言えば前半と後半の2つのパートに分かれ、前半は「動物がものを分け合う話し」、後半は「動物が旅をして敵討ち」する話。
動物がものを分け合う物語は東南アジアによく見られる話しとして知られ、日本に伝わる「かちかち山」も同じです。
参考)【かちかち山】あらすじを簡単に!おばあさんを食べる怖い話
また後半の「旅して敵討ちをする動物の物語」は、「ブレーメンの音楽隊」(グリム童話)にみられるようにヨーロッパにも多い昔話のようですね。
参考)【ブレーメンの音楽隊】本当は怖い話?!担当の楽器やなぜブレーメンだったのかも詳しく
主人公(カニ)に他の動物が協力する、という構成は「桃太郎」とも同じです。
栗、蜂、臼の定着は明治時代
時代をさかのぼってみると、
カニを助ける仲間として「栗、蜂、臼(うす)」が定着したのが実は明治時代。
それ以前の江戸時代では、仲間ももっと多く、「蛇、荒布(あらめ)、杵(きね)、臼、卵、包丁、蜂、まな箸、熊蜂、蛸、くらげ」などが登場。
※)荒布(あらめ):
海藻。コンブに加工される前の姿。
※)まな箸:
料理で使う柄のついた長い木(または鉄製の箸)
また物語自体、桃太郎に非常によく似ていて、親ガニを殺された子ガニが「きび団子」でお供を増やして「猿ヶ嶋へ猿退治に行く」といった「猿ヶ嶋敵討」などのタイトルで親しまれていたようです。
例えば江戸末期、文久(1861-1863)の頃の猿蟹合戦のあらすじを見ると、以下のようになってるようです。
猿が親ガニに渋柿を投げつけ、
親ガニは息絶えるがカニの腹から男の子が現れた!
その子はある夫婦に拾われ「蟹太郎」と名付けられる。蟹太郎が成長すると、育ててくれる両親に涙ながらに訴えます。
「実は昔は蟹の息子で、父は大猿に殺されて無念でならない。猿ヶ島へ敵討ちに行きたい。」
夫婦は日本一のきび団子を蟹太郎にもたせ、猿ヶ島へ行く途中にはきび団子で仲間を増やし、見事かたき討ちを果たした。
登場人物が違うだけで、物語は桃太郎の話とほぼ同じ。
こうした桃太郎風の蟹の敵討ち物語は明治半ばを過ぎると姿を消し、出版も東京に集中、絵本も今知る猿蟹合戦の話が中心となり、大正7年(1918年)には国定教科書(尋常小学国語読本)で「栗、蜂、臼」のメンバーを採用して今知る物語として知れ渡るようになったようですね。
参考)猿蟹合戦の異伝と流布(沢井耐三)
牛のフンの登場の流れ
猿蟹合戦でよく話題に上るのが「牛のフン」。
この牛の糞がいつから出てきたかと見ると、
古くは徳川家康の家臣の日記(1584年)の中の戯画(風刺絵みたいなもの)に「カニ、蛇、臼、栗、蜂」に加えて「牛のフンであろうもの」などが車座になって描かれているようです。
これが今確認できる最も古い資料になるようで、江戸中期(1753年)の「読本:桃太郎物語・夢」に描かれる猿蟹合戦にも牛のフンは登場するし、江戸後期に編集された「そそくり物語」にも「卵、蜂、臼、杵(きね)、荒布、牛の糞」と登場するようです。
つまり牛の糞は、少なくとも江戸時代の初期から登場しているようです。
また、勝又基 氏の「ことばと文化のミニ講座」(既にリンク切れで中身までは見ることが出来ないのが残念)で登場人物についてかなり調べられてます。
簡単に紹介すると、まずは明治時代。
- 明治13年(1880):卵、蜂、臼
- 明治20年(1887:尋常小学校の国定教科書):
卵、蜂、コンブ、臼 - 明治26年(1893:文部省「帝国読本」)
卵、蜂、コンブ、臼
物語の中で最初に はじける のは「卵」、
猿を滑らす役目は「牛のフン」ではなく「コンブ」が選ばれたようですね。
そして大正時代には「卵が栗」に代わるようですが、出版物に「牛のフン」が復活を果たすのは主に昭和に入ってから。
明治の終わりの「新御伽百番 講話資料」(明治43年:1910年)にまず復活しますが、その後は昭和19年(1944年)「あったとさ 思出の夜話」(山田貢)に復活登場。
その後、国土社、ポプラ社、岩波書店、講談社などから出版された昔話系の物語に牛の糞が登場し、でもコンブも同じぐらい採用されていたので、「コンブ」対「牛のフン」で2分されていたようです。
その後、昭和45年(1970)ぐらいを境に、
コンブが姿を消し「牛の糞」が躍進!
(それに伴って針もメンバーに出て来ることが多くなる)
そして1990年代では「牛の糞」が圧倒し、
平成に入ると、基本は昆布ではなく牛の糞になるようですね。
多分ですが、明治や大正時代では厳格な大人目線で考えた時、教育的に「牛のフンよりコンブの方が望ましい」と考えたのかもしれません。
その後時代も移り、世の人々が受け入れるユーモアの幅も広がり、牛のフンという思わず笑ってしまいそうなコミカルなキャラがより受けるようにもなり、出版社から見た時、牛のフンとして描いた方がよく売れたりしたのでしょう。
結果として、昆布として覚えている人より、牛のフンとして物語を知っている人も多そうですね。
平成元年は1989年。
絵本で猿蟹合戦を知った人では、2024年現在で見ると、30代半ば以前では「昆布ではなく牛のフンが登場する」と覚えていて、30代半ば以降では「牛のフン?そんなの登場したっけ?(笑)」という人も結構いることになりそうです。
ただ、この猿蟹合戦の物語、
学校で劇として選ばれることも多いですよね。
聞くところによると、
子供の頃に学校で猿蟹合戦の劇をやって「牛のフンの役」をやるのが嫌だった、という話しもあるようです。
(気持ちが分かり過ぎる!(笑))
こうしたことが増えてくると(PTAとかからの苦情などがあったりして)、その内 牛の糞は消え、コンブがまた圧倒してくる未来も来るかもしれません。(本当?!(笑))
まとめ
- 猿蟹合戦は、柿の種とおむすびの交換からはじまり、子ガニが仲間を集めて親ガニの仇をうつ物語。
- 子ガニを助ける中には、栗、蜂、臼(うす)、コンブ/牛のフンが一般的
- 元々は東南アジアやヨーロッパにその起源があるようだが、今知る物語が定着したのが明治時代以降。
- 牛のフンは、古くは江戸時代の初期から登場し、明治時代以降ではコンブと2分していたが、昭和に入ると牛のフンが圧倒した
この猿蟹合戦は日本5大昔話の1つに数えられてますが、臼(うす)やコンブ、針など、無生物が生き物として描かれているのが非常に特徴的。
日本の昔話で、こうした無生物が生き物として語られる物語は私の知る限りではありませんし、あるとしても笠地蔵ぐらい。(お地蔵さんという無生物が動く。でも人の形をしているし神様だからちょっと違うか)
ちなみに無生物という点では、歴史をたどれば渋柿も活躍した例(柿の木の下で猿を滑らせる役)があるようですが、柿だけは食べられ役で終わってしまうのが、ちょっとだけ不思議にも思うのでした。^-^;)
参考)
【笠地蔵】あらすじを簡単に!かさこじぞうとの違いや笠の秘密も詳しく
コメント